高江:人里離れた沖縄の森を守る戦い
ヘリパッド建設が緊張を駆りたてるなか、抗議デモ行動の新しい波が沖縄の人里離れた北部森林で勃興する。
米国海兵隊がジャングル飛行訓練に使用するヘリパッド建設が新たに着工されるという知らせが伝わると、細く曲がりくねった山道の70号線沿いに先月の真夜中、工事阻止をめざして抗議する数百人の市民が集った(YouTube)。夜明け前になって、ヘリパッドを人里離れたヤンバルの森の平和と安全を直に脅かす危険施設として見る抗議グループに対して、500名ばかりの機動隊が排除行動の挙に出た。
米軍基地反対抗議行動は(今年6月、米軍基地撤退を要求する集会に推定65,000人のデモ参加者が結集する[ロサンジェルス・タイムズ紙]など)沖縄では日常的であるが、今回は違うと抗議参加者らはいった。
沖縄の作家、目取真俊(めどるましゅん)さんは、先日の抗議行動について「警察は今回、粗暴でした。人びとの意思を無視し、すぐに実力行使の挙に出ました」と言い表した。
目取真は状況を戒厳令になぞらえ、数年前に比べ、すっかり変わってしまったと述べた。
日本のメディアは、機動隊の数が抗議グループに比べて5対1の割合で上回っているという例を報道した。Kimiko Kawamura
日本国内のメディア報道(ジャパン・タイムズ)によれば、海沿いのもっとよく知られている別の闘争現場、辺野古岬(YouTube)から北へ車で1時間、東村の高江地区では、時にはデモ参加者の数が日本警察の機動隊に比べて5対1と大きく凌駕されていた。
秋までの完工が予定されている4か所の新ヘリパッド建設工事現場の入口封鎖をねらった座り込み地点から抗議行動参加者が強制的に連れ去られると、こころを揺さぶるような衝突がソーシャル・メディアに掲載されたヴィデオや現場中継映像によって捉えられた。この建設工事は、目下、米軍が統制しているヤンバルの森7,800ヘクタールのうち、4,000ヘクタールを変換することを定めた1996年の米日間合意の一端である。
(既存の着陸区画施設22か所および2015年完工のヘリパッド2か所に追加される)ヘリパッドは、米軍駐留規模の拡大であると考えられるとともに、MV22オスプレイが使うと目されており、このティルト・ローター(角度変換回転翼)ハイブリッド機は騒音と波乱万丈の事故記録の故に沖縄でほぼ万人から毛嫌いされていることから、猛反発を招いている。同型機が2015年5月、オアフ島のワイマナロで墜落しており、海兵隊員2名が死亡、他に20名が負傷した。
沖縄防衛局の報告(沖縄タイムス)によれば、6月に高江地区で実施されたオスプレイの夜間飛行訓練は400回近くになるといい、1日あたりで2014年度平均の8倍の増加になる。石原理絵さんは高江の住民であり、何回かは夜更けの午後10時30分に飛行しており、その結果、少なくとも一家族が別の村に引っ越さなければならなかったと語った。
ヤンバルの森深く、米軍が戦闘訓練に使うヘリパッドの工事現場を囲むフェンスとゲートの外で睨み合う数百名の機動隊と抗議行動参加者。Kimiko Kawamura
これまでの抗議行動は熱烈なものではあったが、おおむね暴力とは無縁だった。ところが、ヘリパッド建設に必要なブルドーザーを通すために森林に新しい道が切り拓かれている今は、強引とでも言うべき戦術に向き合っていると抗議行動参加者らはいう。
ヤンバルの40パーセント近くが米軍の北部訓練場(上図)で占められており、そこには、もともと米軍兵らをヴェトナム戦争に投入する準備のために整備された「最適者生存」ジャングル戦闘訓練センター(下の動画)が設けられている。37,000エーカー(150平方キロ)に拡がる北部訓練場の荒涼地と密林は、近くの中部訓練場と併せて、米軍にとって大事な虎の子と考えられている。
だが、沖縄平和運動センター議長の山城博治さんは、次のように問いかける――
「アメリカは沖縄をなんと考えているんだ? わたしたちは植民地のように扱われている…米軍の最高司令官たちは、これはわれわれにとって最高の訓練場であると宣っており、わたしたちを追い出した日本政府にこれを要求したことには、なんの良心の呵責も感じていないのです」
そして、この紛争の核心部にあるのは、戦うことも逃げることもできない森である。
日本には目下、ユネスコ世界遺産指定地が20か所あり、そのうちの4か所が自然遺産である。人生のあらかたをヤンバルの探究ですごしてきた齢75歳の自然保護活動家、伊波義安(いはよしやす)さんは、ヤンバルの森がこれほど過度に軍事化されていなければ、世界遺産に選ばれていただろうという。
新しい米軍ヘリパッドの建設現場を示す手書き地図の前に立つ沖縄の自然保護活動家、伊波義安さん。Jon Letman
元化学教師の伊波さんは昨年、ある報道記者を森の探訪に連れていった。伊波さんは、ヤンバルの二重構造になった林冠が千金に値する生物種多様性を保全しており、日本のどこに比べても、推定50倍も多様な植物種、動物種、虫類を宿していると説明した。彼はヤンバルを時に「東洋のガラパゴス」になぞらえ、「世界全体の宝」と呼んだ。
森林は2本の本流と数十本の支流で分かたれ、山中に泉が点在しており、沖縄の浄水の約60パーセントを供給し、下流の野生生物に養分を運ぶ水系を形成している。森林、そして沖縄の豊かな海洋環境に注ぎこむマングローヴ湿地に、固有種の鳥類、オオコウモリ、魚類、蟹類が生息している。
ヤンバルは主としてイタジイ(ブナ科シイ属の常緑広葉樹)の森で構成されており、それが一面に生育したブロッコリーのように丘陵や山々を覆い、その下に、10メートルに達する木生シダ(樹木状になるシダ植物)、幻想的なキノコ、カンアオイ(ウマノスズクサ目ウマノスズクサ科カンアオイ属多年草)、その他、沖縄に自生する1,900植物種の多くが生育している。この密生したジャングルは、イノシシ、淡水生ハゼ、トンボ類、イボイモリ、アオミオカタニシ(ヤマタニシ科に分類される陸生貝類の一種)、リュウキュウヤマガメ、コオロギ、悪名高い沖縄ハブ、カエル類39種の生息域であり、カエルの10種は他所にはいない固有種である。
沖縄人によって、ヤンバルの森は保全されるべき場所として尊ばれており、野生生物の聖域として讃えられている。この野生を守る戦いは、いろいろな意味で、ハワイのマクア渓谷、カホーラウエ島、ポハクロアを軍事化から守る抗議運動を連想させる。
たいがいの沖縄人の見解では、ヘリパッドは、沖縄本島全域に散在する同類30か所および米軍基地と同様、島外の二大勢力(東京およびワシントンDC)によって下された決定の結果であり、人びとの意志を反映していない。
ヤンバルの場合、カウアイ島はコケエの天然林が格好の比較対象になる。沖縄本島はカウアイ島に比べて約20パーセント小さく、島内の20パーセントが米軍に占領されているが、ヤンバルとコケエには顕著な類似性がある。
ヤンバルクイナは、象徴的だが、見かけるのが稀な鳥であり、環境保全論者らは開発から守りたいと願っている。Jon Letman
この紛争に関して米国の当局者らは、この騒ぎは沖縄と日本政府のあいだの国内問題であり、わが方としては、コメントを控えたいという態度である。ハワイ2区選出のタルシー・ガバード下院議員は8月3日の公開討論会で沖縄紛争について質問されると、沖縄の地方自治体当局と日本政府の紛争は長引くと予想していると答え、「もちろん、米国政府が関わることはありません」と付言した。
在日米軍は、コメントを求められても反応しなかった。
ハリー・ハリス太平洋艦隊司令長官は7月27日、一般財団法人・日本再建イニシャティヴ主催フォーラムで、「わたしの見解では、米日同盟はかつてこれほど強固であったことはなく、地球レベルの指導力を求めて叫ぶ世界において、われわれの同盟の必要性はかつてこれほど強烈だったことはありませんでした」と演説した。
ハリス司令長官はつづけて、同盟は分かれ道にさしかかっており、撤収または現状維持、あるいは「ルールにもとづく秩序を維持するために志を共有するパートナー同士の協力」のなかから前途を選ばなければならないと語った。
ハリスはさらに続けて、「海の自由は大事です。空と宇宙の自由は大事です」といった。
だが、ヤンバルの森の抗議行動参加者たちにとって、デモクラシー、人権、環境尊重の意味付けが、この最近の騒動によって汚されているのと正しく同様に、自由に関わる問題はおおむね空理空論であるにすぎない。沖縄における抗議行動は、長期にわたって維持されてきた軍事同盟および二国間安全保障協力基本方針が民間人の支持を保障するものではないことを鋭敏に想い起こさせている。
沖縄の事例では、米日間同盟は相互間の尊敬と目標共有の表向きの顔を見せてはいるが、多くの沖縄人にとって、琉球朝日放送の記事が示す現実はもっと錯綜しており、彼らが守るために奮闘している海、空、森に比べて、平和からは遥かにほど遠い。
【筆者】
ジョン・レットマンはカウアイ島在住のフリー・ジャーナリスト。アジア太平洋地域の政治、人びと、環境について執筆。
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【クレジット】
HONOLULU CIVIL BEAT, “Fighting To Save A Remote Okinawan Forest,”
by Jon Letman, posted on AUGUST 12, 2016 at;