2015年10月11日日曜日

津田敏秀教授ら【論文】2011年~2014年:18歳以下の福島県住民の超音波による甲状腺癌の検出(翻訳暫定版)

[訳者お断り:論文著者らによる本論文の日本語訳の作成・公開の予定があるそうです。以下の日本語訳を拙速主義による先行的な私的試訳に位置づけることにします]

EPIDEMIOLOGY(疫学誌)

著者による修正済み:2015105
doi: 10.1097/EDE.0000000000000385
Original Article: PDF Only

2011年~2014年:
18歳以下の福島県住民の超音波による甲状腺癌の検出

Tsuda, Toshihidea; Tokinobu, Akikob; Yamamoto, Eijic; Suzuki, Etsujib

Published Ahead-of-Print

【編集者注】本論の解説はXXXページに掲載。

2015125日提出、2015810日受理。

著者および所属先:
a 津田敏秀
岡山大学大学院環境生命科学研究科・人間生態学講座
b 時信亜希子
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科・疫学衛生学講座
c 山本英二
岡山理科大学情報学部・情報科学講座
b 鈴木越治
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科・疫学衛生学講座

本研究の先行版は、国際環境疫学協会のバーゼル総会(2013年)およびシアトル総会(2014年)に提出された。

著者らは、利益相反の不存在を報告している。

補足デジタル資料は、本論文HTML版およびPDF版に付されたURLリンクから入手できる(www.epidem.com)。

このコンテンツは査読も第三者編集も施されていない。したがって、著者らが独自に責任を負う。

連絡先:
700-8530岡山市北区津島中3丁目11
岡山大学大学院環境生命科学研究科・人間生態学講座

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本稿は、クリエイティブ・コモンズ表示-非営利-改変禁止ライセンス(CCBY-NC-NDの条件で配布されるオープン・アクセス論文であり、ダウンロードすること、ならびに適切な出処表示を付したうえで配布することが許容されている。本稿の改変と商業利用はいかなる形であっても許されない。

ISSN: 1044-3983/15/XXXXX-0000
DOI: 10.1097/EDE.0000000000000385

概要

【背景】20113月の東日本大震災および津波のあと、福島第一原子力発電所から放射性元素が放出された。その結果、予備知識にもとづき、被曝した住民の甲状腺癌症例が増加するのか否かについて、不安が生じた。

【方法】福島県は放射性元素の放出後、18歳以下の全住民の甲状腺超音波検査を実施した。一巡目スクリーニング(一斉検査)で298,577人が受診し、二巡目のスクリーニングが20144月に始まった。われわれは県による一巡目検査および20141231日までの二巡目検査の結果を分析し、日本の年間発症率および福島県内の対照区地域の発症率と比較した。

【結果】日本の発症率と比較して、潜伏期間を4年とした、県の中通り地方中部の罹患比率が最高であることが認められた(罹患比率=5095%信頼区画[CI]=2590)。被験者100万人あたりの甲状腺癌有病率は605人であり(95 CI3021,082)、福島県内の対照区と比較した罹患比率は2.6であった(95 CI0.997.0)。二巡目のスクリーニングでは、未受診の被験者の全員が無病であると仮定しても、罹患比率がすでに12になっていることが認められた(95 CI5.123)。

【結論】(放射性元素)放出から4年以内に、福島県の小児および若年者の甲状腺癌の過剰症例が超音波で検出されており、これはスクリーニング効果による急増であるとは説明できない。

(Epidemiology 2015;XX: 00–00)


福島第一原子力発電所は2011311日の東日本大震災および津波のあと、放射性元素を放出した。時間とともに風向きが変わり、ヨウ素131、セシウム134、セシウム137、その他の放射性核種が施設の北西と南の両方面に放出された1。放出された放射性物質の相対量は、ヨウ素1319.1%、セシウム13417.5%、セシウム13738.5%と推測されている。チェルノブイリでは、反応炉1基がメルトダウンしたが、フクシマでは、3基がメルトダウンした2。フクシマ事故で大気中に放出された放射能の量は、約900ペタベクレル(ヨウ素131500ペタベクレル、セシウム13710ペタベクレル)と推計されている。チェルノブイリ事故によって、国際原子力事象尺度におけるヨウ素131の放出量5,200ペタベクレルの16に相当する量の放射能が放出されたと計算されている3

世界保健機関は健康リスク評価を実施し、予備線量評価にもとづき、子どもたちが放射線被曝した結果、甲状腺眼症例の過剰発生を予測した4,5。世界保健機関は、2012年に予備線量推計を報告したとき、福島県内の(ただちに避難した原発から20キロ圏内の地域4を除く)影響が比較的大きい区域、その他の福島県内の区域、近隣各県、その他の日本国内、近隣諸国、その他の世界の集団線量を推計していた4。福島県内を被曝線量で3区分した地図を示す。
図.福島県と20112013年度の一巡目スクリーニング区域の地図。

世界保健機関は、吸引、地表放射線による外部被曝、摂取による、2011年の甲状腺等価線量を、影響が大きい区域で100200ミリシーベルト(mSv)、福島県内のその他の区域で10100 mSvと見積もっていた4。最も汚染されている原発20キロ圏外の直近区域では、甲状腺に対する放射線量推計値のなかで、吸入による被曝の割合が最高であり、地表放射線によるものが二番目に高く、摂取によるものが最低だった。報告は、時間の経過とともに、地表放射線による被曝の割合が高くなったと示唆していた。

本研究の主題である福島県内のスクリーニングの他にも、Watanobe et al.62012年から2013年にかけて、事故時に18歳以下だった福島県住民1,137人を対象にした甲状腺超音波検査を含むスクリーニングを実施した。このスクリーニングで検出された甲状腺癌はなかった。福島県以外の日本国内の地域については、環境省が2012年度に超音波を用いて、3県(青森、山梨、長崎)に住む318歳の子どもおよび若年者4,365人のスクリーニングを実施した7。その結果、甲状腺癌の1症例が検出された8。チェルノブイリを含め、予備的に収集したデータをeTable 1 (http://links.lww.com/EDE/A968)にまとめる。

事故から310か月後の時点において、本研究の主たる目標は、フクシマの経験を正確で定量的な見積もりにまとめ、今後の集団公衆衛生上の必要性に備えて計画することであった。

方 法

被曝推計

フクシマが放出したヨウ素131による被曝の情報は、ヨウ素131の半減期が8日と短く、災害のためにモニタリング拠点が破壊されたために不明確である。Torii et al.1は、(たとえば、ヨウ素131の吸入と摂取による)内部被曝および(セシウム134とセシウム137による)外部被曝の推計値の地域分布の違いを説明するために、放射性ヨウ素と総空中線量率の違いと併せて、原発から南方の地域に相当量のヨウ素131が蓄積したことをあげている。

世界保健機関報告4が引用した日本の出処文献9–11の他に、Unno et al.12が、さまざまな都市における1日あたりのフォールアウトのヨウ素131放射能レベル、ホウレンソウ、牛乳、鶏卵のヨウ素131放射能レベル、水道水のヨウ素131汚染について、20113月から5月にいたる東日本各地の経時変化を報告している。彼らは、吸入による放射性ヨウ素被曝を考慮しなかった。彼らはまた、2011424日から531日までフクシマ核施設から250キロ圏内に居住していたボランティア授乳女性119人の母乳の放射性ヨウ素濃度を測定した。4月に検査した23人の女性のうち、7人の母乳に検出可能レベルのヨウ素131が認められた。

放射線医学総合研究所は急性摂取モデルにもとづき、Unno et al.12,13のデータから母親と乳児の等価線量を見積もった14。その結果、見積もり線量は、福島県のいわき市、茨城県、千葉県を含む、45220キロ南または南西に居住する母親が119432 mSv、乳児が3301,190 mSvの範囲に分布した。

しかしながら、Nagataki et al.15は、避難および避難準備区域の子どもたちのスクリーニングおよび摂取量推定による甲状腺放射線量が、1,083人のうち95.7%で10 mSv(最大:35 mSv)になると見積もられたと報告した。20キロ圏内の重度に汚染した地域、ならびに主としてフクシマ施設から北西の追加的に汚染された地域からの避難の時期は、2011312日から6月中旬までの期間にあたっていた3。住民の多くが利便性を理由に、フクシマ県内各地、とりわけ中通り地方に避難し、「被験者とそのスクリーニング」と定義された。

チェルノブイリにおいて、いくつかの研究16–18が独自に放射性ヨウ素と甲状腺癌症例の線量応答関係を見積もっているものの、正確な蓄積放射線量はいまだに確定していない。フクシマの外部および内部放射線量の正確な測定値が存在しないので、20113月時点における被験者の住所をそれぞれの行政区域に分類して個別被曝線量測定値の代用にした。

被験者とそのスクリーニング

199242日から201141日までに出生した福島県の全住民を対象にするスクリーニング事業は、福島県によって立案・実施され、それ以来、「一巡目」に区分けされた192011年度から2013年度にかけて、すなわち表1に示すように「直近区域」で2011年度、「中間区域」で2012年度、「低レベル汚染区域」で2013年度、2011年時点で18歳以下だった全住民が超音波による一斉検診を受けた。福島県立医科大学の倫理委員会は2011922日、超音波を用いるスクリーニング(承認番号1318、研究責任者:安倍正文副学長)を承認した。その報告書に記述されているデータの分析に関して、甲状腺癌調査データセットが匿名化されて公表されているので、被験者に関する調査の手間が省けた。大部分がフクシマ施設から50キロ圏内の「直近区域」(被験者47,768人)は、最も汚染がひどかった区域であり、図に濃い灰色で示されている。この区域に施設から20キロ圏内の避難区域が含まれており、世界保健機関はまだこれらの地域の線量を見積もっていない4

図に薄い灰色で示されている「中間区域」(福島第一原発から5080キロ圏内、2011年時点で18歳以下だった住民が161,135人)は、人口がかなり多い。これらの地域はおおむね、世界保健機関報告の「影響が大きい場所」と一致している4。われわれは中間区域を4つの地区、中通り北部、中通り中部、郡山市地域、中通り南部に区分した。中通り中部の放射線量値は、中通り地方の4地区のなかで最も高かった。

図に白色で示されている、福島県内の残りの地域(世界保健機関報告の「最低レベル汚染地域」、被験者数158,784人)を4つの地区、会津最低レベル汚染区域、南東最低レベル汚染区域、いわき市地域、北東最低レベル汚染区域に区分した。これらの4地区のうち、北東部以外は、世界保健機関報告の最低レベル汚染区域に最も一致している4

したがって、福島県を9つの地区に区分けしたことになる(図)。20113月時点における各被験者の住所が、地区配分に使われた。各地区の主だった都市の情報が、2011330日正午ごろの屋外空中線量データを含め、オンライン・データ表に記されており、eTable 2 http://links.lww.com/EDE/A968)にまとめられている11。空中線量率が高い地区の被験者は、早い時期に一斉検査を受けた。スクリーニングの順序は、直近、中間、最低レベル汚染区域の順だった。その反面、事故からスクリーニングまでの期間の長さは逆であり、最低レベル汚染区域、中間、直近の順になった。その結果として、最低レベル汚染区域の地区を対照区に用いると、地区間比較の患者数オッズ比(POR)を過小評価することになる。中間区域および最低レベル汚染区域において、一巡目スクリーニングのおおまかな順序は、中通り北部および中部、中通り南部、郡山市、北東・最低レベル汚染区域、いわき市および南東・最低レベル汚染区域、会津・最低レベル汚染区域の順だった。したがって、同じ地域でも、検査が最初だった区域と最後だった区域のあいだに1年近くの時間差があった。一巡目スクリーニングの結果は、ほぼ3か月ごとに公表された。

二巡目のスクリーニングは、201142日から201241日までに出生した全住民を加えて、20144月に始まった20。スクリーニング(以後、「二巡目」)は、初年度に直近および中間区域、次年度にその他で実施され、20163月に完了する。二巡目は2年以内に、2011年に胎児だった被験者を含め、18歳以下の全住民を対象に網羅することになる。

陽性の所見が認められた被験者は二次検査を受け、必要であれば、微細針吸引生検を受けた19。癌細胞が検出された場合、患者は経過を観察され、時宜をみて手術を受けた。摘出された甲状腺組織は、組織学的に検査された。福島県は、微細針吸引生検や手術の時期など、医療判断の説明を公表していない。医療処置の日程について、入院の必要があるので、疾患の進行状況に加えて、患者が通う学校の予定も考慮された。たいがいの微細針吸引生検と手術は、福島県の情報にもとづき、福島県立医科大学で実施された。

分析
福島県が市や町で個別に手術を実施した癌症例の数を公表していないので、われわれは、二次検査の微細針吸引細胞診で検出された甲状腺癌を「甲状腺癌」症例と定義した。手術した87例のうち、86症例(99%)が組織検査で悪性腫瘍と診断された。われわれは、甲状腺癌発症を、内部と外部の二通りで比較した。内部比較の場合、南東部最低レベル汚染区域を対照区に用い、その他の8区域における甲状腺癌のPOR95%信頼区画(CI)を推計した。外部比較の場合、日本の国立がんセンターが報告する2001年から2008年までの日本人の年間平均「甲状腺癌」発症率の19歳以下の人の推計値(つまり、1,000,000人あたり2人)および5歳ないし24歳の人の推計値(1,000,000人あたり6.5人)21を用いて、1,000,000人あたり3人を対象発症率に採用し、9区域の罹患率比(IRR)と95 CIを見積もった。そのさい、われわれは疾患の潜伏期間によって患者数を区分した22。この場合の「潜伏期間」は、甲状腺癌がスクリーニングと細胞検査で検出される時期、そして一斉検査を受けなくても臨床の場で診断されたり手術を受けたりするかもしれない時期の差を意味している。フクシマ事故から甲状腺癌検出までの最長期間が310か月であり、われわれはこれに対応して、小児甲状腺癌の潜伏期間を4年と想定した。

われわれは、“Epi Info 7”ソフトのStatCalcを用いて、Pを中間値とする最大尤度オッズ比によって、POR95 CI、ガイギー科学表に記載されているポアソン分布にもとづいてIRRを計算した23

1人口統計分析データ:2011311日時点で18歳以下だった人口、一巡目の被験者数、一巡目検査の陽性数、二次検査の被験者数、2015331日までに区域(1)から区域(9)までの各区域で検出された癌症例数
区域および地域
19歳未満人口
一巡目
被験者数
一次検査
陽性例数
二次検査
被験者数
癌手術例数
N(人数)
A (A/N, %)
B (B/A, %)
C (C/B, %)
D(手術例)
直近区域(1)(2011年度)
47,768
41,810 (88)
221 (0.53)
199 (90)
15 (15)b
中間区域(2012年度)
161,135
139,339 (87)
988 (0.71)
919 (93)
56 (50)
中通り北部(2
57,212
50,618 (89)
312 (0.62)
297 (95)
12 (NA)
中通り中部(3
21,052
18,194 (86)
115 (0.63)
111 (97)
11 (NA)
郡山区域(4
64,383
54,063 (84)
458 (0.85)
413 (90)
25 (NA)
中通り南部(5
18,488
16,464 (89)
103 (0.63)
96 (93)
8 (NA)
最低レベル汚染区域(2013年度)
158,784
117,428 (74)
1,042 (0.89)
949 (91)
39 (22)
いわき区域(6
62,289
48,810 (78)
429 (0.90)
401 (92)
22 (NA)
南東最低レベル汚染区域(7
38,321
29,656 (77)
230 (0.78)
210 (91)
7 (NA)
会津最低レベル汚染区域(8
49,927
32,760 (66)
323 (0.99)
289 (89)
10 (NA)
北東最低レベル汚染区域(9
8,247
6,202 (75)
53 (0.86)
49 (93)
0 (0)
合計
367,687
298,577 (81)
2,251 (0.75)
2,067 (92)
110 (87)
a 2011311日時点

b 手術のうち1例が組織検査によって良性腫瘍と診断されたが、本研究において、この症例は細胞診結果による癌と評価されている。
結 果

1は、一巡目スクリーニング対象者の人数、じっさいに受診した人数(「一巡目被験者」)、スクリーニングで陽性と判定され、二次検査に紹介された人数(「二次検査被験者」)、組織検査で甲状腺癌が検出された人数、そして手術で判明した癌症例数を示している。

2011年時点で18歳以下だった367,687人のうち、298,577人が201412月までに一巡目スクリーニングで受診した。一斉検査を受診する住民の割合は、2011年度が88%、2012年度が87%、2013年度が74%であり、年ごとに低下している。この傾向の原因は主として、検査が最後になった最低レベル汚染区域の16歳ないし18歳の被験者の割合が低くなったからである。16歳ないし18歳の対象者に占める被験者の割合は、直近区域が74%、中間区域が63%、最低レベル汚染区域が34%だった。日本の社会では、18歳以上の住民が就職や進学のために故郷を離れることが多いので、事故時点の集団の一部は、自分の区域でスクリーニングが始まった時には、すでに転出していたのである。

201412月末までに、超音波検査で陽性の所見が認められた2,251人のうち、2,067人が二次検査を受診し、微細針吸引のよる細胞診で110症例の甲状腺癌が検出された。110症例のうち、110症例のうち、87症例が201412月末までに手術され、86症例が組織学的に癌(83症例が乳頭癌、3症例が低分化腺癌)と確定し、1症例は良性腫瘍と診断された。

2は、内部比較と外部比較の両方の結果を示している。外部比較の結果は、甲状腺癌が1症例も検出されなかった北東部最低レベル汚染区域を除いて、3区分すべてでIRRが過剰であることを示している。

2各地における201412月までの罹患率、罹患率オッズ比(POR)、罹患率比(IRR
区域および地域
甲状腺癌罹患率
106あたり症例数(95 CI
内部比較
外部比較
POR95 CI
IRRa95 CI
直近区域(1)(2011年度)
359 (201, 592)
1.5 (0.63, 4.0)
30 (17, 49)
中間区域(2012年度)
402 (304, 522)
1.7 (0.81, 4.1)
33 (25, 43)
中通り北部(2
237 (123, 414)
1.0 (0.40, 2.7)
20 (10, 35)
中通り中部(3
605 (302, 1,082)
2.6 (0.99, 7.0)
50 (25, 90)
郡山区域(4
462 (299, 683)
2.0 (0.87, 4.9)
39 (25, 57)
中通り南部(5
486 (210, 957)
2.1 (0.7, 6.0)
40 (17, 80)
最低レベル汚染区域(2013年度)
332 (236, 454)
28 (20, 38)
いわき区域(6
451 (282, 682)
1.9 (0.84, 4.8)
38 (24, 57)
南東最低レベル汚染区域(7
236 (95, 486)
1 (reference)
20 (7.9, 41)
会津最低レベル汚染区域(8
305 (146, 561)
1.3 (0.49, 3.6)
25 (12, 47)
北東最低レベル汚染区域(9
0 (0, 595)
0.00 (0.0, 2.6)
0.00 (0.0, 50)
a IRRは、細胞診断にもとづく。組織学的に確定した手術済みの症例にもとづく場合、4年間の潜伏期間を用いた外部比較のIRRは、直近区域が(良性の1症例を除いて)2895 CI1547)、中間区域が3095 CI2239)、細胞診が陽性の症例の二次検査が完了していない最低レベル汚染区域が1695 CI1024)であった。

組織学的に確定した手術済みの症例にもとづく場合、4年間の潜伏期間を用いた外部比較のIRRは、直近区域が(良性の1症例を除いて)2895 CI1547)、中間区域が3095 CI2239)、細胞診が陽性の症例の二次検査が完了していない最低レベル汚染区域が1695 CI1024)であった。

外部比較におけるIRRが最も高かったのは、福島第一原発から50ないし60キロ西に位置する福島県の中通り中部であり、ここから住民は避難していない(陽性細胞診にもとづくIRRは、5095 CI2590)。この地区の罹患率は、被験者100万人あたり605症例(95 CI3021082)であり、南東部最低レベル汚染区域と比較したPORは、2.695 CI0.997.0)であった。

この表に2014年度に始まった二巡目スクリーニングが含まれていないものの、対象者の人数は次のとおりである――対象者合計218,397人、じっさいに受診した対象者106,068人(49%)、そのうちの75,311人(71%)が二次検査の要否がすでに決定しており、611人(0.8%)が陽性の検査結果、二次検査の受診者377人(陽性受診者の62%)、二次検査で最終診断が決定した受診者262人(70%)、微細針吸引で検査された受診者22人(8%)、20141231日までに細胞診で新たに検出された甲状腺癌8症例。この8症例の患者(男性4人と女性4人、2011年事故時の年齢、6歳から17歳)の全員は、一巡目スクリーニングを受診していた。8症例のうち、3症例において、一巡目の検査で5.0ミリ以下の結節および/または20.0ミリ以下の嚢胞が検出されていた。癌の1症例はすでに手術を受けていた(組織型は、乳頭癌)。2011年時点における患者の平均年齢は、二巡目で12.1±3.4歳、二巡目で14.8±2.6歳であった。残りの75,303人(75,311人-癌症例8人)の全員が無病であると想定しても、潜伏期間を一巡目以降で最長期間となる3年とした外部比較をすれば、IRRが過剰になる(1295%信頼区画=5.123)。

考 察

フクシマにおける外部・内部両面の被曝の正確な測定値は入手できないものの、被曝情報の代用に居住地を用いた外部比較において、小児および若年者の甲状腺癌の症例数が約30倍に増加することが認められた(表2)。チェルノブイリにおける過剰甲状腺癌に関する先行報告でも、場所と時間がやはり被曝情報の代用に使われていた24–26。中通り中部では、PORがかなり低いものの、甲状腺癌の過剰が外部比較でも内部比較でも認められた。中レベルおよび低レベル汚染地域にある最南端地方のIRRが高いという知見は、ヨウ素131の流れがフクシマ放出源から主として南方に向かったという事実に一致していた。

罹患率(1,000,000人あたり検出症例数)、表2IRR、事故からスクリーニングまでの期間――チェルノブイリで4年ないし16年、フクシマで4年以下――に鑑みて、甲状腺癌リスクが15年以上にわたって蓄積するという世界保健機関の推測にもとづき、フクシマの甲状腺癌症例が予想以上に急速に増大すると推察できるであろう5。他の測定12が示唆しているように、福島県における甲状腺に対する放射線の負荷は想定よりも大幅に思いかもしれない4。チェルノブイリにおける罹患率のばらつきもまた、事故とスクリーニングのあいだの期間のばらつきの結果であるかもしれない。懸念事項をひとつあげれば、外部比較の場合に認められた、おおよそ30倍の甲状腺癌症例数の増加はスクリーニング効果の結果であるかもしれないということである。この気がかりは、日本のスクリーニングを実施していない小児と若年者に無症状性の甲状腺癌が潜んでいる可能性にもとづいている。しかしながら、IRR数値は、このバイアス(歪み)をもって説明するには余りにも高い。さらに言えば、福島県が公表したデータ27によれば、福島県立医科大学病院で手術した54症例のなかから40症例(74%)に陽性のリンパ節転移が認められている。この知見は、スクリーニングで検出された癌が、とりわけ初期段階のものではなかったことを示唆している。

そのうえ、一巡目スクリーニングで受診し、癌が認められなかった事例のなかから、過小評価されているが明白な甲状腺癌の増加(8症例:3年の潜伏期間を置いたIRR12)が二巡目スクリーニングで認められている20。ほとんどの隠れていた甲状腺癌症例が一巡目のスクリーニングで捕捉されているので、この結果はスクリーニング効果では説明できない。

フクシマ事故が甲状腺癌の発症率の増加におよぼす因果効果について、懸念事項をもうひとつあげると、事故後4年以内の過剰では、放射線被曝が甲状腺癌を発症させるには、時期尚早であるというものである。しかしながら、チェルノブイリでは、1986年の事故から3年以内、1987年から1989年にかけて、ベラルーシとウクライナの両国で甲状腺癌症例の小幅な過剰が認められている28,29。おまけに、1987年から1989年にかけて、チェルノブイリ周辺でスクリーニングは実施されていなかった30。米国の疾病対策センターによれば、経験にもとづく甲状腺癌の最短誘発期間は、成人で2.5年、子どもたちで1年である31。したがって、2011年度以内でさえ、超音波を用いるスクリーニングで事故に関連する甲状腺癌が検出されることはありうると、われわれは考察した。

本研究の限界について、われわれはいくつか挙げておくべきである。第一に、このスクリーニング事業と二次検査は、表1に示されているように、2011年の事故時に福島県内に居住していた検査対象適格者の全員を網羅しているわけではなかった。一斉検査を受診した集団が被曝した集団を完全に代表していないかもしれない。適格者のうちの受診者の割合は、2011年に16歳から18歳だった年代層を中心に、2012年度から2013年度にかけて次第に低下しており、癌症例の半分(110症例のうちの55症例)は、この年代層から検出されているのである。福島県が、検出された癌症例の年代別および自治体(市町村)別の特性で分類した数を報告していないので、この低下分の補正をできなかった。したがって、2013年度の地域別患者数を照合に使った場合、内部比較における過剰評価の原因になるかもしれない。

第二に、事故時とスクリーニング受診時のあいだの経過期間の長さの影響をさらに考察すべきである。スクリーニングが遅くなった地域または地区を参照基準に用いて、それぞれの地域/地区を比較すれば、経験的確率の導入時間が異なるため、さらなる過小評価がもたらされることになる。われわれは南東部最低レベル汚染区域を参照基準に用いたが、そこではスクリーニング事業が2013年度に実施されたので、PORを過小評価することになった。さらにまた、内部比較の場合、参照基準もまた被爆の影響を受けているので、外部比較に比べて、内在的に過小評価されることになる。具体的にあげれば、参照区域(図)で認められた癌の7症例のうち、4症例が須賀川市で認められていたが、この都市は、市域の半分が空中線量率の高い区分に含まれているので、通常の場合、中間区域に属していることになる。須賀川市を参照基準区域から外していれば、参照基準区域の罹患率は100万人あたり170人に下がることになる。外部比較でIRRを推計するさいに、一巡目スクリーニングの経過時間に4年を採用し、二巡目スクリーニングの外部比較で3年の経過時間を採用すれば、実際の期間より長くなるので、やはりIRRを過小評価することになるかもしれない。

第三に、被曝線量見積もりの代用に地域と地区を採用したが、そのために、一様な被曝分類ミスを招いた可能性があり、影響評価をゼロ方向に歪めたかもしれない。交絡因子になりうる、放射線以外の甲状腺癌の発症促進要因のひとつに、世代的に受け継がれてきた遺伝子変異があり、これは地域的な過剰を說明するとはいえない。後述するように、本研究の対象者全員が18歳以下なので、日本国内にも福島県内にも、場所に付随する交絡因子はほとんどない。さらにまた、自然放射線レベルが事故前の福島県で日本の他の場所よりも高かったことを示す証拠はない。

第四に、われわれは微細針吸引細胞診の陽性結果にもとづき、甲状腺癌症例を定義した。しかしながら、手術を受けた症例のうち、組織学的に確定された症例の割合は99%であり、それ故、疾病分類ミスは無視できるようである。結論として、2011年時点の年齢が18歳以下だった福島県民の場合、福島第一原子力発電所事故から4年以内という、ほんの短い期間のうちに、外部と比較して、約30倍の過剰症例が発生し、県内部の比較でもばらつきがあったことが認められた。この結果は、スクリーニング効果では、とても説明できそうにもない。チェルノブイリの場合、事故後4年ないし5年経過してから、ベラルーシとウクライナで甲状腺癌が目立つようになっており、本研究で認められた症例過剰は、今後数年以内にさらに多くの潜在的症例が浮上する事態に備えるようにと、われわれに警告している。さらに言えば、甲状腺癌の症例数が、世界保健機関の健康評価報告5の予測よりも急速に増加しているので、住民の被曝線量が世界保健機関による公式報告、つまり線量見積もりよりも高かった可能性を推論できるようである。

【編集付記】福島県が2015518日付けで新しいデータを公表し、本論文に記載された甲状腺癌の症例数に、一巡目スクリーニングの2症例、二巡目の7症例が追加されることになった。潜伏期間を3年とする二巡目スクリーニングの外部比較によるIRRは、13.795 CI7.723)に高まった。われわれはこの情報を、eTable 3eTable 4、それにオンライン附属書のテキストで提供する(http://links.lww.com/EDE/A968)。

[訳注:本稿末尾、【参照文献】の次に、附属書の日本語訳を添付します。内容は、eTable 14、最新の公開データにもとづく補足情報です]

謝 辞

著者らは、Colin L. Soskolne, PhD, Martin Tondel, MD, PhD, Erik R. Svendsen, PhD, Gaston Meskens, MSc, and Wael Al-Delaimy, MDのみなさんに、2011年フクシマ核事故に関連する癌にまつわる問題について、思慮深い提案をいただくとともに、建設的な議論に加わっていただき、また本論文の初期草稿の段階で編集上の建設的な助力をいただき、感謝を申し上げる。著者らはまた、今中哲二理学修士、林敬治医学博士、岩見億丈医学博士・哲学博士には、貴重な参照文献を提供いただき、感謝を申し上げる。

参照文献

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付属書 eAppendix


eTable 1. 分析の人口統計データ:2011311日時点で18歳以下だった人口、一巡目の被験者数、一巡目検査の陽性数、二次検査の被験者数、2015331日までに各区域または各地域で検出された癌症例数
区域および地域
19歳未満人口
一巡目
被験者数
一次検査
陽性例数
二次検査
被験者数
癌手術例数
N(人数)
A (A/N, %)
B (B/A, %)
C (C/B, %)
D(手術例)
直近区域(1)(2011年度)
47,768
41,810 (88)
221 (0.53)
199 (90)
15 (15)b
中間区域(2012年度)
161,129
139,338 (87)
988 (0.71)
920 (93)
56 (52)
中通り北部(2
57,211
50,618 (89)
312 (0.62)
298 (96)
12 (NA)
中通り中部(3
21,052
18,194 (86)
115 (0.63)
111 (97)
11 (NA)
郡山区域(4
64,380
54,063 (84)
458 (0.85)
415 (91)
25 (NA)
中通り南部(5
18,486
16,463 (89)
103 (0.63)
96 (93)
8 (NA)
最低レベル汚染区域(2013年度)
158,788
118,395 (74)
1,070 (0.90)
977 (91)
41 (32)
いわき区域(6
62,293
49,405 (79)
452 (0.91)
418 (93)
23 (NA)
南東部最低レベル汚染区域(7
38,322
29,815 (78)
242 (0.81)
215 (898.8)
7 (NA)
会津最低レベル汚染区域(8
49,927
32,821 (66)
323 (0.98)
295 (91)
11 (NA)
北東部最低レベル汚染区域(9
8,246
6,354 (77)
53 (0.83)
49 (93)
0 (0)
合計
367,685
299,543 (82)
2,279 (0.76)
2,096 (92)
112 (99)
【略語】NA:データなし
a 2011311日時点
b 1手術例が組織検査により良性腫瘍と診断されたが、本研究において、この症例は細胞診結果による癌と評価されている。

eTable 2. 各地における2015331日までの有病率オッズ比および罹患率比
地域および区域
1)~(9
100万人あたり
甲状腺癌患者数(95 CI
内部比較
外部比較
POR
(95 CI)
IRR
(95 CI)
直近区域(1)(2011年度)
359 (201, 592)
1.5
(0.63, 4.0)
30
(17, 49)
中間区域(2012年度)
402 (304, 522)
1.7
(0.82, 4.1)
33
(25, 43)
中通り北部(2
237 (123, 414)
1.0
(0.40, 2.7)
20
(10, 35)
  中通り中部(3
605 (302, 1,082)
2.6
(0.99, 7.1)
50
(25, 90)
  郡山区域(4
462 (299, 683)
2.0
(0.88, 4.9)
39
(25, 57)
  中通り南部(5
486 (210, 957)
2.0
(0.73, 6.0)
40
(17, 80)
最低レベル汚染区域(2013年度)
349 (249, 470)
29
(21, 39)
  いわき区域(6
466 (295, 699)
2.0
(0.88, 5.0)
39
(25, 58)
  南東部最低レベル汚染区域(7
235 (94, 484)
1.0
参照標準区
20
(7.9, 40)
  会津最低レベル汚染区域(8
335 (167, 600)
1.4
(0.55, 3.9)
28
(14, 50)
  北東部最低レベル汚染区域(9
0 (0, 581)
0.0
(0.0, 2.5)
 
0
(0.0, 48)
【略語】CI=信頼区画、IRR=罹患率比、POR=有病率オッズ比

eTable 3. 核施設メルトダウン後における小児および若年者の超音波検査で検出された甲状腺癌有病率に関する、福島および青森、山梨、長崎、チェルノブイリの比較
研究
研究地域
対象者
事故時
年齢
対象者
検査時
年齢
研究期間
対象者
人数
症例数
症例数
/百万
(
罹患率)
罹患率95CI
日本








Watanobe et al.a
福島
18
平均6.1
±4.6SD
201213
1,137
0
0
0, 3,244
環境省 b
青森、山梨、
長崎
318
2012
4,365
1
229
6, 1,276
チェルノブイリ
IPHCAc
ゴメリ
18歳以下
199092
15
2,200
キエフ、
ジトームィル
15
199294
5
400
笹川、第1
スクリーニングc
ゴメリ
10
199196
38
1,900
モギリョフ
10
199196
2
80
キエフ
10
199196
6
220
ジトームィル
10
199196
9
310
笹川、第2
スクリーニングc
キエフ
18
19962000
25
2,300
ジトームィル
14
19962000
11
1,300
ベラルーシ
スクリーニングc
ベラルーシ
14
199091
7
6,400
ゴメリ
18歳以下
2002
2
53
ウクライナ米国
コホート研究c
キエフ
チェルニーヒウ
ジトームィル
18
19982000
43
3,200
Ito et al.d
モギリョフ
010
199193
12,285
0
0
0, 300
Demidchik et al.e
ゴメリ
14
2002
25,446
0
0
0, 145
Shibata et al.e
ゴメリ
813
19982000
9,472
0
0
0, 389
【略語】CI=信頼区画
a Watanobe et al. (参照文献6)の研究対象者は、事故時の年齢が18歳以下だった(胎児を含む)福島県住民。
b 日本の環境省が実施(参照文献8)。
c Jacob et al.(参照文献30)の表1より:表に患者数が記載されておらず、したがって95%信頼区画は評価不能。
d Ito et al.の研究(Thyroid. 1995;5:365–8)は笹川記念保健協力財団に支えられており、Jacob et al.(参照文献30)に記載されている「笹川、第1次スクリーニング」と重なっている可能性がある。
eDemidchik et al.Arq Bras Endocrinol Metabol. 2007;51:748–62)とShibata et al.Lancet. 2001;358:1965–6)の研究対象者は、1987年後に出生した人たちなので、事故時の年齢は適用できない。



eTable 4. 福島第一原子力発電所からの近似距離と方向、対象者数、全地域・区域のデータが文書で提供されている最も早い日限である2011330日における各地域・区域の空中線量率
地域
区域
代表的な都市
原発からの近似距離(方角)
対象者数
空中線量率
μg/hr*
直近
南相馬
24 km
(西)
12,526
0.97
中間
中通り北部
福島
62 km
(北西)
53,553
2.80
中通り中部
本宮
57 km
(西)
6,112
2.08
二本松
56 km
(西北西)
10,256
2.88
郡山市
郡山
58 km
(西)
64,383
2.39
中通り南部
白河
81 km
(南西)
12,161
0.76
最低レベル汚染
いわき市
いわき
47 km
(南南西)
62,289
0.67
南西部
須賀川
60 km
(西南生)
15,309
0.42
会津
会津若松
97 km
(西)
22,987
0.25
 
北東部
相馬
42 km
(北北西)
6,813
0.61
* 2011330日午前10時~11時の線量率
出処:https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/16025d/kako-monitoring.html (最終アクセス:2015429日、参照文献11)掲載、https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec_file/monitoring/m-2/zenken0311-0331.pdf URLのサイトは日本語表記であり、著者らは同URLサイトから2011330日のデータをここに抜書きした。


【オンライン付録】(2015518日に公表された)2015331日までのデータの分析の結果と考察

一巡目スクリーニングのデータの分析が2015518日に公表され、その結果をeTables 12に示す。たとえば19歳未満の人数など、eTable 1の基本データは、未知の理由により、表2の基本データと少しばかり異なっている。しかしながら、われわれは福島県の公表文書に従った。甲状腺癌の2症例(いわき区域の1症例と会津最低レベル汚染区域の1症例)が追加された。分析の結果は、本文のそれと基本的に同じである、しかしながら、手術を受けた症例の数が、前回公表分の87症例から518日公表分の99症例に増えた。1症例が良性腫瘍、95症例が乳頭癌、3症例が未分化腫瘍だった。微細針吸引生検で陽性判定された癌の112症例の平均腫瘍サイズは、14.2±7.8 mm(範囲:5.145.0 mm)だった。手術を受けて、組織学的に確定した症例にもとづけば、4年間の経過期間を用いた外部比較のIRRは、(良性の1症例を除く)直近区域で2895 CI: 15, 47)、中間区域で3195 CI: 23, 41)、最低レベル汚染区域で2395 CI: 15, 32)となった。

実施中の二巡目スクリーニングのデータも、やはり2015518日に公表された。対象者の人数は、219,348人だった。そのうち、148,027人(68%)が二巡目スクリーニングを受診した。そのうち、すでに121,997人(82%)について、追跡検査の要否が決定されている。そのうち、1,043症例(0.7%)が二次検査を勧告され、593人(57%)が追加検査を受診しており、491人(83%)の結果が確定している。微細針吸引生検を受診した51人のうち、15症例(29%)について、微細針吸引と細胞診によって癌細胞が検出されている。

癌症例と認められた15人全員が、一巡目スクリーニングのさい、追加検査の対象者ではなかった。本文で前述した前回の2015212日公表分の8症例に、7症例が追加されたのである。直近区域の8症例、中通り北部の6症例、中通り中部の1症例が追加されている。15症例のうち、すでに5症例が手術を受けている(すべて、組織学的診断により、乳頭癌と判定)。15症例の平均腫瘍サイズは、15 was 9.1±3.4 mm(範囲:5.317.3 mm)だった。20113月時点の平均年齢は、13.1±3.5歳(範囲:618歳)。15症例のうち、8症例では、一巡目スクリーニングで結節も嚢胞も認められていなかった。6症例について、5.1 mm未満の結節または20.1 mm未満の嚢胞が認められ、1症例について、5.1 mmの結節または20.1 mmの嚢胞が認められていたが、追加検査で癌が否定されていた。この子どもたちの癌の多くは、一巡目スクリーニング以来、約3年以内に発達したのかもしれない。

残りの121,982人(121,997人-癌15症例)の全員が無病息災であると仮定しても、13.7 95 CI: 7.7, 23)という統計的に有意であるIRR(前回スクリーニングからの最大間隔幅である3年間の潜伏期間を用いた外部比較)が認められた。

二巡目スクリーニングの追加検査が未完了なので、推計値が甚だしく過小評価されているものの、二巡目スクリーニングにおける症例数の過剰はすでに明白になっている。「無症状の癌」が一巡目スクリーニングで捕捉されているので、二巡目スクリーニングの予備的な結果は、福島県の小児および若年者の甲状腺癌の発現過剰の説明として、「スクリーニング効果」は考えらないことを示唆している。まさしく、一巡目スクリーニングを受診し、追加検査の必要がなかった対象者のなかから、二巡目スクリーニングの結果、15症例の甲状腺癌が検出されたのである。

主としてチェルノブイリとフクシマの小児および若年者の甲状腺スクリーニングによる有病率がeTable 3に示されている。

【クレジット】

EPIDEMIOLOGY, “Thyroid Cancer Detection by Ultrasound Among Residents Ages 18 Years and Younger in Fukushima, Japan: 2011 to 2014,” by Tsuda et al., 2015
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本稿は、公益・教育目的・非営利の日本語訳である。著者らは日本語論文のオンライン公開を計画しているとのことである。

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2015107

20151010日土曜日

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