2015年8月11日火曜日

英紙ガーディアン【ルポ】川内原発:日本の国論を分断する、フクシマ核惨事後、初の核反応炉再稼働



川内原発:日本の国論を分断する
フクシマ核惨事後、初の核反応炉再稼働

反応炉の再稼働計画の支持者らはガス・石油使用によるコスト高を主張しているが、施設の老朽化とリスクが広範な人びとの懸念を招いている。

再稼働を控えて、薩摩川内市近郊の川内原子力発電所で実施された緊急事態検査。Photograph: Getty Images

ジャスティン・マッカリー Justin McCurry 薩摩川内市発
2015 89

なにもなければ目立たない南西日本の町が今週、20113月のフクシマ核惨事以来、日本最大の原子力実験の最前線に押し出されようとしている。

日本は数か月にわたる安全性論争のあとで早くも火曜日にも、2年間近く中断していた原子力発電を薩摩川内の町で再開する。

川内原発の建造後30年になる反応炉2基のうち、1基の稼働再開は、日本経済は高上りにつく石油・ガス輸入の重圧で沈滞すると主張する安倍晋三首相の勝利になる。

だが、安部首相がフクシマの恐怖と対決しろと国民に呼びかけても、たいがいの有権者は、たとえ電気料金の値上げに直面していても、核の再稼働に反対する気持ちが固く、懐疑的な態度で応えた。

福島第一原発が三重メルトダウンを起こし、25年間で世界最悪の核危機を招いてから4年たった日本は、今後のエネルギー・ミックスをめぐって国論が深く分断されている。

2011年の災害は160,000人に避難を余儀なくさせ、国内で稼働中の反応炉48基を安全検査のために閉鎖させた。

薩摩川内市の100,000人住民の意見は、懸念するものから安堵するものまでさまざまである。

小川正治(おがわよしはる)さんは、日本の原子力復帰に反対して運動している。Photograph: Justin McCurry/Justin McCurry for the Guardian

地元の活動家たちは、いざフクシマ並みのメルトダウンが発生すれば、何万人もの住民を速やかに避難させる方策を原発事業会社――九州電力――と自治体当局者らは、さらになお説明しなければならないという。

川内原発の再稼働に反対するグループの代表、向原祥隆(むこはらよしたか)さんは、「原発の近くに学校や病院があるのですが、どうやって子どもたちやお年寄りを避難させるのか、だれもわたしたちに説明していません」といった。

「大変な数の車、地滑り、道路や橋の被害のために、当然ながら、交通は行き詰まるでしょう」

朝日新聞の調査によれば、川内原発から30キロ圏内に85か所ある医療機関のうち、2か所だけ、159か所の看護・介護施設のうち、15か所だけが適切な避難計画を備えていた。

川内原発から30キロ圏内――フクシマ立ち入り禁止区域と同サイズ――に、約220,000人が住んでいる。50キロ圏まで拡大すると鹿児島市が含まれることになり、被災する住民数が900,000人に跳ねあがる。「そうなれば、どれほど混乱するか、思いも寄りません」と、向原さんはいった。

フクシマのメルトダウンの口火を切ったのと同じ類いの巨大地震が、唯一考えられる危険ではない。川内原発は5か所のカルデラ群に囲まれており、日本有数の活動的な火山、桜島はほんの50キロ離れているだけであり、原発が火山灰降下物に見舞われ、最悪の極端なシナリオの場合、溶岩流に襲われる恐れがある。

それにまた、安全性審査を受けるため2011年に閉鎖されてから使われていない、老朽化した反応炉の信頼性にも疑問がある。「30年以上も道路を走ってきた車に乗っていて、安心はできないでしょう。なぜ、核反応炉を信頼できるのでしょう?」と、向原さんはいう。

グリーンピース・ドイツの核専門家、ショーン・バーニーは、日本政府と核産業に対し、核反応炉稼働を再開する決定において手抜きをしていると糾弾した。

「彼らは核の安全性と公衆健康防護の基本原則を尊重しておりません。2011年の福島第一原発における悲劇を勃発させた『原発ムラ』に巣くう同じ当事者らが、原子力の復活に拍車をかけているのです」と、バーニーは述べた。

日本南西部、鹿児島県の川内原子力発電所。Photograph: Justin McCurry/Justin McCurry for the Guardian

川内原発1号炉は、再稼働が見込まれる25基のひとつである。宮沢洋一経産大臣は先日、「われわれはようやく最初の原子炉再稼働にこぎつけた」と記者団に語った。川内原発の2号炉が10月に運転を再開すると予想されている。

川内原発の反応炉は昨年の秋、改組された原子力規制委員会が設定した安全基準に初めて合格した。再稼働は、東京から1,000キロ南西に位置する薩摩川内市の議員26名のうち、19名が賛成し、核賛成派である伊藤祐一郎・鹿児島県知事による認可をえた。

反応炉停止を求め、運動している薩摩川内市の住民、鳥原涼子(とりはらりょうこ)さんは、世論調査によれば、日本国民の大多数が核の再稼働に反対しているのに、町の議会は地元住民の意見を汲みあげようとしないと語った。

「彼らは結果を恐れて、地元住民の世論調査を実施しようとしません。日本が2年近く原子力がなくても不都合なしに完璧にやりすごしてきたことに、彼らは気づいているのです」と、鳥原さんは述べた。

共同通信が昨年10月に実施した全国世論調査によれば、原子力発電の即時再開について、回答者の60%が反対であり、31%が賛成していた。だが、再稼働支持者らは、長期におよんだ原子力発電所の運転中断が薩摩川内市の住民を疲弊させたという。

市の商工会議所によれば、原発が操業していれば、地元に年間30億円(1600万英ポンド)に達する経済効果があり、その多くは、時間のかかる定期安全点検を実施するため、町に
押しかける3,000人の労働者が落とす金である。

薩摩川内市は、反応炉を受け入れていることで、年間10億円の補助金を政府から受け取りつづけてはいるが、住民の一部は、原発がこれほど長く閉鎖していては、宿泊施設、食堂、その他のサービス業の売上が手酷く落ち込み、地元商圏の活力が萎えてしまうとこぼしている。

27歳の建設業者、瀬戸口哲郎(せとぐちてつろう)さんは、「これがわたしの町であり、町の経済が落ち込んでいるのを見てはおれません。わたしたちは原発を受け入れていることで、多額の助成金をもらっていますし、それがなくなれば、町が回らなくなります」といった。

「たくさんの仕事が原発に依存しており、特に建設業はそうです。わたしは、ここの建設業者の誰も彼もが原子炉の再稼働をきっと願っていると思っています」

九州電力は昨年8月、企業存続のために国営の銀行から1000億円の緊急援助資金を得ており、反応炉1基を再稼働することによって、化石燃料を燃焼する経費を月間74億円削減できると見積もっている。九州電力は4年間連続の赤字に苦しんでおり、日本中の核事業者は、フクシマによって余儀なくされた施設閉鎖の結果、数百億ドルの損失をこうむったという。

フクシマ以前、核は日本の電力需要の30%をまかない、その占有率を50%に引き上げる計画があった。フクシマ以後、安倍政権は2030年時点で核が総エネルギー・ミックスに占める占有率を野心的にも2223%に設定した。

薩摩川内市近郊の川内原発反応炉の再稼働に同意した鹿児島県議会の会合で抗議行動をする反核運動グループ。Photograph: AP

川内原発は、日本が原子力発電の新たな未知の時代に入る先導役になる準備として、高く巡らせた防護フェンスに囲まれ、警備員らが巡回する砦になっている。

反核活動家たちは、海のすぐそば、吹きさらしのビーチに設置したテント村で、日本に差し迫った核再起動の不可欠性を是認するのを拒んでいる。

東京近郊の自宅からやってきた小川正治さんはこういった――「それを止めるためには、なんでもやります。地元の当局者たちは再稼働を承認したかもしれないですが、完全に世論との接点から外れています」。

【クレジット】

Japan split over restart of first nuclear reactor since Fukushima disaster
By Justin McCurry
本稿は、公益・教育目的の日本語訳。

【付録】




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