イアン・フェアリー博士 Dr Ian Fairlie
環境中の放射能に関する独立コンサルタント
【更新版】核産業労働者の放射線による白血病リスクが従来の推計値の2倍であることを示す有力な新研究
2015年7月7日
第1に、この研究は著者らが述べるように、「蓄積的、外部、慢性的、低線量、被曝と白血病の線量-応答関係」の「有力な証拠」を提示している。
第2に、この研究は、核労働者における白血病の放射線リスクが、2005年の同じような先行研究が認めたリスクの倍以上になることを明らかにしている。(中性子に被曝した労働者を除く)白血病死亡率の過剰相対リスク(ERR)は、グレイあたり4.19だった。同じ著者らのうち何人かによる15か国における(やはり中性子に被曝した労働者を除く)労働者たちを対象にした2005年の同様な研究は、シーベルトあたり1.93のERRを観測していた。つまり、新しい研究のリスク評価は以前の研究より117%も高い。決め手となるのは、新しい研究のリスク推計が以前のものよりずっと正確であることだ。
第3に、非常に低い線量(平均値=年間1.1ミリグレイ)でさえも、リスクがあることを確認している。日本の原爆被爆者研究と違って、低線量率におけるリスクを高レベルの場合から演繹(えんえき)するのではなく、そのリスクを観察している。
第4に、この研究はリスクが線量率によって決まるものではないことを明らかにしており、国際放射線防護委員会(ICRP)が線量率効果係数(DREF)を用いて、ICRP公表の放射線リスクを(半分に)減らす働きをさせているのとは対照的である。
第5に、放射線による白血病リスクが線量と線形的に正比例して低減することを明らかにしており、数値が低く出る、白血病の線型二次曲線関係を示していた初期の諸研究と対照的である。これは放射線リスクの線形閾値なし(LNT)モデルを裏付けるものであり、今では固形癌だけでなく、白血病にも適用されている。
第6に、この研究は、(ゼロ線量は別にして)それ以下では影響が認められないという閾値の存在を示す証拠がないことを明らかにしている。
第7に、この研究は、90%信頼区画と片側p値(確率値)を用いている。従来の場合、95%信頼区画と両側p値が間違って用いられることが多くて、統計的な有意性を確立するのが難しかった。
更新理由の説明
筆者は、当ブログ記事の2015年6月29日付けで投稿された初期版において、2005年の研究と現在の研究の増加分が50%、すなわちグレイあたり1.93から2.96への増加であると書いた。その理由は、論文の「考察」欄において、新旧2つの研究と両者の提示するリスクを具体的に比較し、旧版の白血病リスクが小さく見積もられ、正確さが減じられていたと述べていたからである。
しかしながら、論文を精読して調べた結果、考察欄の直前のパラグラフに次のような文章が見つかった――「われわれは、中性子被曝を記録され、除外されていた人びとの影響を評価した。白血病との正比例関係が認められた…(グレイあたりERR[過剰相対リスク]4.19、90% CI[信頼区画]:1.42~7.80、453死亡例)…」。読者のみなさんに要点を理解していただくために書いておけば、中性子に被曝した労働者を除外した場合、リスクは大きくなった。
2005年の研究は中性子に被曝した労働者を除外していたので、このことは重要である。それ故、正確な比較をするには、中性子被曝ではない労働者の比較をしなければならず、その結果はグレイあたり4.19と1.93――50%ではなく、117%の増加である。
筆者は論文の著者らに連絡したが、おそらく夏季休暇のためだろうが、まだ返信を受け取っていない。進展がありしだい、読者のみなさんに最新情報を提供するつもりである。
研究の信頼性
研究の信頼性はまことに申し分ない。これは、300,000万人を超える労働者を対象にして、積算すれば800万人・年余りに達しており、それ故、その知見の統計的な有意性が保証され、言い換えるならば、偶然によって得られた結果である可能性は非常に低い。おまけに、これは、次のような米国、英国、フランスの国立保健機関の尊敬されている科学者たち13名による研究である――
- 米国疾病対策センター
- 米国労働安全衛生研究所
- 米国保健社会福祉省
- 米国ノースカロライナ大学
- 米国ドレキセル大学・公衆衛生大学院
- 英イングランド公衆衛生サービス
- フランス放射線防護・原子力安全研究所
- スペイン環境疫学研究所
- 国連・国際がん研究機関(フランス)
研究資金は、米国疾病対策センター、米国労働安全衛生研究所、米国エネルギー省、米国保健社会福祉省、日本国厚生労働省、フランス放射線防護・原子力安全研究所、英イングランド公衆衛生サービスなど、数多くの機関から提供されている。
筆者の結論
この研究は、放射線リスクは過大評価されているとか、なぜか放射線は健康によいとさえ言い立てる(英国人作家、ジョージ・モンビオなど)無知で未熟なジャーナリストや自称科学者らの見解を強烈に否定している。この研究で、ホルミシス効果は観察されたり、考察されたりしていない。このような見当違いの効果は、本物の科学者の考察にも値しないとみなされている。研究に貢献した科学者たちとその国立機関を揃えた印象深いリストを見るなら、放射線リスク否定論者らにしても、自分の見解を考えなおすのに役立つはずだ。研究の後ろ盾になっている米国の機関やアメリカ人科学者らの見解によれば、このことは特に米国のリスク否定論者らに当てはまっている。
論文は、「現状では、放射線防護システムは急性被曝に由来するモデルにもとづいており、低線量および低線量率の場合、単位線量あたりの白血病リスクは累進的に減少すると想定している」とあからさまに評言している。研究は、この想定が不適切であることを示している。論文の著者らは、線量率効果係数(DREF)を使うべきでないという見解で、WHOとUNSCEARの科学者らと一致している。ICRPがこの有力な証拠を受け入れ、DREFに対する執着を捨てるか否か、この点に疑問が残っている。あまり期待しないほうがいいですよ…と筆者は読者諸賢に助言したい。
著者らは彼らの研究の意味合いについて、興味深いことに――核産業による被曝ではなく――医療被曝を選んでコメントしている。著者らはこう記す――「放射線被曝の職場および環境における線源は重要である。しかしながら、この傾向に最も大きく寄与しているものは、医療放射線被曝である。1982年の米国において、医療被曝による電離放射線の平均年間線量は1人あたり0.5 mGyだった。それが2006年までに3.0 mGyに増大している。他の高所得諸国においても、同じ傾向が認められる。英国で同じ期間内に放射線が関与する診断法の使用回数が2倍以上に増え、オーストラリアでは3倍以上になっている。電離放射線は発癌源であるので、その医療行為における使用は、患者の被曝にともなうリスクとのバランスを考慮したものでなければならない」。
これは完全に正しく、また心配でもあり、医療放射線量が1982年から2006年までのあいだに、米国で6倍、英国で2倍に増えたと明かされては、なおさらのことである。著者らはこうつづける――「この知見は、放射線防護の基本原則――合理的に達成可能な限りに被曝を減らす防護の最適化――の順守の重要性、そして――患者の被曝の場合――被曝が害よりも善になると正当化することの重要性を示している」。もちろん同じことが――彼らの研究の実際のテーマ――核産業による被曝にもあてはまる。
【参照文献・謝辞】
(1) Leuraud, Klervi et al (2015)
Ionising radiation and risk of death from leukaemia and lymphoma in
radiation-monitored workers (INWORKS): an international cohort study. The
Lancet Haematology Published Online: 21 June 2015.
(2) Cardis E et al (2005) Risk of
cancer after low doses of ionising radiation: retrospective cohort study in 15
countries. BMJ 2005;331:77.
筆者は本稿の準備にさいして、アルフレッド・コーブライン博士、キース・ベーヴァーストック博士に洞察力のある助言をいただき、感謝を申しあげる。
【筆者】
イアン・フェアリー博士(Dr. Ian Fairlie)は、環境における放射能のコンサルタント。 ロンドン、バーツ保健NHS信託病院における放射線生物学の学位を保持、インペリアル・カレッジ・ロンドンおよび米国のプリンストン大学において、核燃料再処理の放射線学的な危険性に関する博士課程研究に従事。
フェアリー博士は、かつて英国環境食糧省において、原子力発電所による放射線リスクを担当する公僕だった。2000年から2004年にかけて、英国政府の内部放射体による放射線リスク検討委員会(CERRIE)の事務局長を務めた。政府の公職を辞してから、欧州議会、地方自治体、環境NGO、民間人のコンサルタントとして活躍している。
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