2015年8月5日水曜日

【論文】加齢と放射線~不都合な道連れ

 Wiley Online Library

·        
Volume 14, Issue 2
April 2015
Pages 153–161
















Open Access
オンライン掲載日:201522
DOI: 10.1111/acel.12306
© 2015 The Authors. Aging Cell published by the Anatomical Society and John Wiley & Sons Ltd.

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加齢と放射線~不都合な道連れ
Aging and radiation: bad companions

著者:Laia Hernández1, +, Mariona Terradas1, +, Jordi Camps2, Marta Martín1, Laura Tusell1 and Anna Genescà1

著者情報
1.        バルセロナ自治大学細胞生物学・生理学・免疫学部
Department of Cell Biology, Physiology and Immunology, Universitat Autònoma de Barcelona, Bellaterra, Spain

2.        肝臓・消化器系疾患バイオメディカル・ネットワーク研究センター
診療病院、胃腸・膵臓腫瘍学グループ
Gastrointestinal and Pancreatic Oncology Group, Hospital Clínic, Centro de Investigación Biomédica en Red de Enfermedades Hepáticas y Digestivas (CIBERehd), Institut D'Investigacions Biomèdiques August Pi i Sunyer (IDIBAPS), Barcelona, Spain

+ 同格著者ら

連絡先:
Anna Genescà, Cell Biology Unit (C2-044), Department of Cell Biology, Physiology and Immunology, Universitat Autònoma de Barcelona, 08193 Bellaterra, Spain. Tel.: +34 93 581 14 98; fax: +34 93 581 18 39; e-mailanna.genesca@uab.es


·         First published: 2 February 2015
·         DOI: 10.1111/acel.12306

概要
加齢には細胞機能の劣化および変化がともない、腫瘍を形成させかねない形質転換を細胞に起こさせやすくする。成人の老齢化にともない、放射線被曝による発癌リスクが高くなる。炎症反応の増大化、酸化/抗酸化平衡の喪失、テロメア(染色体末端部位)消耗の進行、DNA損傷反応効率の低下、核組織の劣化が、加齢に関連する細胞変化であり、これがゲノムの統合性に対して深刻な脅威になる。われわれは本研究において、これらすべての要因のあいだのメカニズム相互作用を考察し、加齢にともなって認められる放射線感受性の増大に対して、それらが寄与する様相に関する総合的な見解を提示する。平均余命が伸びるにともない、医療介入も頻繁になるので、年配者に対する放射線防護の利益を強調することは重要である。それ故、加齢に関連する放射線感受性の脅威を規定するメカニズム過程を深く理解することは、現代において最大の関連事項である。


序論
放射線被曝時の年齢は、放射線が誘発する癌に関与する主な要因のひとつである。一次損傷が癌の発症にいたるまでの潜伏期が長いので、若年期に被曝した人間は放射線感受性が最も高い。放射線に対する感受性は、その後、成熟にいたるまで低下するが、老年期になると再び高くなる。そのような放射線感受性の年齢による変化に関する疫学的な証拠は、さまざまな研究で報告されてきた。日本の原爆被爆者の生涯研究コホートにおいて、被爆時年齢を要因として、放射線誘発癌の過剰相対リスク(ERR)が検証された(Shuryak et al., 2010)。癌誘発のERRは予想どおり、小児期に最も高く、3040歳の被爆時年齢において、しだいに低くなった。固形癌を発症するERRは驚くべきことに、被爆時年齢が40歳以上になると再び上昇した(Shuryak et al., 2010)。リチャードソンとウィングは、オークリッジY-12ウラニウム処理施設の労働者に同様な傾向を認めた(Richardson & Wing, 1999)。彼らは、45歳以降に被曝した放射線量が若年期のそれに比べて、癌死亡率との関連性が強いことを観測した。これらの知見すべてが、4045歳をすぎた成人の場合、癌発症との関連で測定した放射線感受性が加齢にともなって上昇することを示唆している。この二峰性のERR分布は、若年期における被曝のあとの放射線リスクが健康悪化プロセスの開始に関連しており、高年齢期における被曝のあとの放射線リスクがたいがい既存の前癌期細胞の悪化促進にともなっていることを反映しているといわれてきた(Shuryak et al., 2010)。放射線感受性だけでなく、医療画像診断を受ける個人の割合もまた、年齢にともなって有意に増えており、この診断による蓄積有効線量もそうである(Fazelet al., 2009)。最後に、これまでの数十年間、平均余命が顕著に伸びており、それ故、老齢期における放射線誘発性の腫瘍が発症し、進行する時間も伸びている。

したがって、公衆を危険にさらすかもしれない年齢相関変化を理解することは、ますます重要になる。われわれは本研究において、酸化ストレス、テロメア消耗、DNA修復、炎症反応といった4つの細胞過程に注目し、これら4つのメカニズムが加齢と放射線感受性の関連に寄与している様相に関する総合的な見解を提示する。

加齢と放射線によって生じる酸化ストレス
遊離基老化説の教訓

活性酸素種(ROS)は、正常な細胞代謝によって内生的に生成したり、放射線や化合物に被曝することにより外生的に産出されたりする(Valko et al., 2007)。ROSは、水酸ラジカルや過酸化水素などの化合物を形成し、細胞内で有害な化学反応を引き起こしかねない。高レベルのROSは、脂質、核酸、蛋白質など、高分子を壊す原因になる。脂質の過酸化は、この損傷過程の初期段階のひとつであり、窒素塩基の酸化がそれにつづく。DNAの主として鎖切断やDNA架橋結合といった損傷は、細胞ゲノムの突然変異の原因になる。さらにいえば、蛋白質中のすべてのアミノ酸はROSによって実質的に酸化されうる。ROSの有害な作用は、酸化ストレスと呼ばれている。しかしながら、ROSが細胞に起こしうる損傷は、その蓄積度に依存するだけではなく、ROSと抗酸化種との均衡にも依存する。酸化ストレスは、酸化促進・抗酸化均衡が崩れるときに生成され、それが、DNARNA、脂質、蛋白質といった細胞内分子の多くを改変し、傷つける(Veskoukis et al., 2012)。酸化ストレスは、神経変性および炎症性の疾患、それに癌といった広範な種類の人間の病気に結びつくので、生物医学の観点から重要である。ROSは、細胞増殖、アポトーシス(細胞自然死)の回避、組織転移および浸潤、それに血管形成といった、さまざまなレベルにおいて、腫瘍の発生および進行の多くの側面を促進する(reviewed in Sosa et al., 2013)。

ROSは、DNA損傷の持続的な原因になるので、生物体機能の加齢に関連する劣化に寄与していると考えられている。加齢をROSに関連づける最古の学説は50年以上も前に提案され、好気性生物の生涯にわたるROSおよびそれに付随する酸化損傷の蓄積が老化過程を引き起こすことを前提にしていた(Harman, 19561992)。近年になって、この説は一部の論文著者らに手厳しく批判され、彼らは酸化損傷と老化表現形との相互関係が存在するとしても、それは因果関係を意味していないと主張した(Buffenstein et al., 2008; Pérez et al., 2009; Lapointe & Hekimi, 2010)。この論争に参入することは本論文の視野を超えているが、この学説のいくつかの点は本論文の考察と関連している。第一に、加齢に寄与しているか否かはともかく、ROSの蓄積が、幼若細胞に比べて、老化細胞の場合に高くなっていることが判明した(Ku et al., 1993)。第二に、ROSの増加に加えて、加齢にともなう抗酸化酵素活性の劣化も報告されている。活性酸素分解酵素、グルタチオン・ペルオキシダーゼといった抗酸化酵素は加齢にともない、その活性および/または遺伝子発現において減衰することが示されている(Andersenet al., 1997; Inal et al., 2001)。今日、遊離基加齢説は、より控えめな位置に向かって進展しているようであり、加齢とともに酸化種と抗酸化種との数の不均衡が増大すると唱えている(Junqueira et al., 2004)。この不均衡が、細胞構造とホメオスタシス(生理恒常性)とを共に損なう加齢依存性の酸化ストレスを誘発しているのかもしれない(Kregel & Zhang, 2007; Liu & Xu, 2011)。

老化細胞の酸化・抗酸化不均衡状態を悪化させる電離放射線

電離放射線は細胞レベルでさまざまな作用をおよぼしうる。放射線が細胞に吸収されると、直接または間接的な作用のいずれかによって、損傷が生じうる。直接作用の場合、光子吸収によって生じる二次電子が、DNARNA、あるいは蛋白質といった生体分子と相互作用して、吸収される(Riley, 1994)。放射線は、高エネルギー電子、光子と、細胞内の酸素および水といった分子標的のあいだの相互作用に起因するROSの大量生成を局所的にもたらす。放射線はまた、ミトコンドリアから発せられる信号の処理過程を通してもROSを生成する。細胞に内在的な放射線感受性は、DNAに突然変異を誘発させる被曝後のROS生成によって決まると提案されている(Seong et al., 2010)。すでにROSを多く含んでいる老化細胞に対する放射線照射が、過剰酸素代謝物を排除する役割のある抗酸化システムの過剰負荷に寄与することが明らかである(図1)。Kasapovic et al. 2009)は、放射線によるROSの生成に対する加齢効果を推察する意図をもって、老齢の女性らの抗酸化能力の低下とそれによる酸化傷害の増大を示す証拠を提示した。彼らは放射線治療後に形成されたH2O2を排除する能力を見積もるために、さまざまな年代の乳癌患者を2グループに分け、それぞれの血液細胞中のさまざまな抗酸化酵素の働きと脂質ヒドロペルオキシドの蓄積を測定した。年配患者グループの抗酸化能力が減退し、脂質ペルオキシドが増加していることが認められた。著者らは、放射線治療が酸化遷移をさらに亢進させ、それが乳癌と老化に関連する既存の慢性的な酸化ストレスを高めることにより、突然変異の可能性をさらに増大させる結果になると結論づけた。治療および緩和目的の電離放射性物質の血中投与に対する抗酸化能力もまた同様に、加齢とともに減衰すると報告されている(Kasapovic et al., 2009)。このように、細胞が老化しており、レドックス(酸化還元)システムが自然に弱体化している年配者の場合、放射線は重大な影響をもたらしかねない。動物モデルを用いた生体実験研究もこれと同様に、食餌に抗酸化添加剤を混ぜて与えると、その後の電離放射線の作用を最小化することができると認められた(Weiss & Landauer, 2003)。これとは逆に、既製の細胞グロビン(ROSを駆除する脊椎動物のグロビン)を用いる処方が功を奏し、神経膠腫細胞の放射線感受性を高めた(Fang et al., 2011)。細胞グロインの過剰発現の結果、酸化ストレスが誘発する細胞死に対してヒトの神経芽腫細胞が守られた(Fordel et al., 2006)。これらの研究は、老化細胞の放射線感受性に影響しうる酸化ストレス抑制システムと放射線感受性の関連を実証している。
図1.加齢にともなう酸化促進/抗酸化平衡の漸進的喪失および、この過程に電離放射線がおよぼす相乗作用。老化細胞の活性酸素種(ROS)生成は、幼若細胞に比べて大きい。さらに加えて、老化細胞の抗酸化システムもまた弱体化している。この筋書きによって、酸化ストレスが増大する。この均衡に電離放射線が加わると、システムが過飽和になり、老化細胞の損傷量が増大する。赤色の星はROSを表し、緑色の三角は抗酸化システム/酵素を表す。

要するに、すでに酸化・抗酸化状態が不均衡になっている老化細胞が放射線に被曝すると、抗酸化物質システムに過剰負荷がかかることが明白である(図1)。老化細胞において、ROS生成が細胞の抗酸化防衛能力を凌駕すると、酸化ストレスが過剰になり、DNA、蛋白質、細胞膜脂質の損傷を誘発する。要約すれば、老化にともない、放射線がさらにROS生成に寄与し、腫瘍形成悪性転換の可能性を高くする。

テロメア:加齢にともなう放射線感受性の悪性化作用
加齢にともなうテロメアの消耗

テロメアは染色体末端部のDNA蛋白質構造であり、外ヌクレオチド鎖分解性劣化、同種組み換え、非相同末端結合から染色体を守っている。均衡メカニズムが働かなければ、テロメアDNADNAの複製ごとに短くなる。テロメラーゼ(テロメア補充酵素)が染色体の末端に新しいテロメアDNAを加えるものの、その働きは基本的に、卵巣、睾丸、および活性リンパ球、成人の組織幹細胞といった増殖性の高い組織に限られている(Colgin & Reddel, 1999)。したがって、ヒト組織のたいがいの体細胞の場合、テレメラーゼ活性が適正なレベルに達しておらず、皮膚、胃腸系、血液といった増殖が迅速な細胞の場合、加齢にともなってテロメアが消耗する。白血球テロメアの平均的な長さが加齢と逆比例関係にあり、年間20ないし40塩基対のペースで減少することを確定した研究がある(Brouiletteet al., 20032007; Fitzpatrick et al., 2007)。テロメアの長さが限界点に達すると、複製老化による恒久的な増殖停止状態になる(Harleyet al., 1992)。複製老化は、DNA二重螺旋切断によるものと似ているDNA損傷反応の活性化によって誘発され(d'Adda di Fagagna et al., 2003)、腫瘍抑制因子メカニズムであると想定されている。つまり、主としてp53遺伝子(腫瘍の増殖を抑制する遺伝子)またはRb(下部直腸)経路において細胞が突然変異すると、悪性進行が発生し、このテロメア性の増殖停止を克服する。テロメアが限度まで短くなった老化細胞が老化誘因信号に反応しなくなったり、老化成長停止を逃れたりするようになると、そのテロメアは短くなりつづけ、危険なまでに遺伝子不安定状態に陥って機能しなくなる。

テロメア消耗とゲノムの不安定性

複製老化の限界を超えた細胞増殖は、封印のない染色体を出現させる原因になり、DNA複製のあと、そうした染色体が相互に、または姉妹染色分体と融合することがある(Soler et al., 2005)。このような不安定な染色体構造が融合-架橋-切断サイクルを形成することがあり、これが遺伝子量の急速で重要な変動を促すことが多く、テロメア機能不全と染色体の不安定性につながる(図2)。特にテロメア消耗への細胞の反応が細胞周期チェックポイントの欠陥によって減衰している場合、発癌が誘発されることが、p53機能を弱めたマウスを用いた研究で実証された(Artandi et al., 2000)。腫瘍、具体的には癌の症例数の劇的な増加が、テロメアの短くなったhTERT−/− p53+/−マウスに認められた。実に、これらの腫瘍の細胞遺伝学的な特性は、ヒトの癌のおいても再現されたのであり、染色体の不均衡再配列が高い頻度で認められた(Artandi et al., 2000)。注目すべきこととして、p53とコード化されるTP53腫瘍抑制遺伝子の突然変異と欠失は、ヒトの癌において頻繁に認められ(Negrini et al., 2010)、また生物体老化および癌症例と顕著に関連している(Richardson, 2013)。

じっさい、数件の研究が老化に関連するDNA損傷、突然変異、遺伝子の不安定を報告している(Burhans & Weinberger, 2007; Lushnikova et al., 2011; De Magalhães, 2013; López-Otín et al., 2013)。おまけに、加齢に関連する老化反応有効性メカニズムの欠乏症が存在するのかもしれず、それがテロメアの決定的に短い細胞の増殖を誘発しているのかもしれない(Feng et al., 2007)。最後に、テロメア機能不全がヒトの癌に見られるゲノム不安定性の重要な要素であることを示す最も直接的な証拠が、テロメア融合を検出し、分析するためのPCR(複製連鎖反応)にもとづく試験を用いた研究で認められた。Tanaka et al.2012)はテロメアに関連する連続融合PCRを用いて、ヒトの胸部前癌および悪性病変にテロメア融合が認められ、正常な胸部組織には認められなかったと報告した。これらの研究を総合して、細胞周期チェックポイントが不全になった細胞環境における、加齢にともなうテロメアの消耗が、年配者におけるヒトの発癌に寄与しているという概念が支持されている(Meeker & Hicks, 2004; Negrini et al., 2010)。
2老化細胞におけるテロメアの消耗。電離放射線が新たなDNA二重螺旋切断(DSBs)を誘発し、それによって、蓋のない染色体が間違った修復をしでかす可能性をもたらす。老化細胞が複製老化を免れると、蓋のない染色体の数が増え、再配列が起こりやすくなる。そうなると、末端と末端の融合が起こり、異なった染色体同士のDSB末端融合が起こる。2本のセントロミア(染色体の長腕と短腕が交差する部位)が別々の方向に引っ張られると、二動原体染色体が切断されることがあり、この切断がさらなる融合を誘発し、それがさらに新たな架橋を促し、さらにまた新たな切断が起こる。この過程は切断breakage–融合fusion–架橋bridgeサイクル(BFB cycles)と呼ばれ、大規模なDNA増幅と進行性の端部欠失をもたらす。これらの結末のいずれもが、染色体の不安定性拡大をもたらし、それが発癌過程をスタートさせたり、促進させたりする。

放射線感受性を高めるトロメア消耗

テロメアの機能不全は癌発症の原因になるだけでなく、放射線感受性にも関連している。テロメアが短い細胞は、テロメアが長い細胞に比べて放射線感受性が高い(Goytisolo et al., 2000; Wong et al., 2000)。テロメラーゼ欠損Terc-/-マウスの放射線被曝した胎児線維芽細胞を用いた研究によって、このマウス・モデルにおける感受性増大の根拠を理解する重要な手がかりが得られた。Latre et al. 2003)は、末端部が無防備な染色体が、相互間だけでなく、放射線誘発性のDNA二重螺旋切断部位(DSBs)とも融合することを認めた(Latre et al., 2003)。つまり、短くなったテロメアは、放射線誘発性のDSBsが新たに結合する可能性をもたらすのである。老化した細胞が複製老化の起動にしくじる(Feng et al., 2007)と、その蓋のされていない染色体が、追加的な再結合の機会をもたらすのであり、そのために、放射線が誘発した切断の不適切な修復を増やすかもしれないのである(図 2)。したがって、消耗したテロメアがチェックポイント機能障害に出会う場合、老化が単独で染色体の不安定性を誘発しうるとすれば、放射線は老化した生体内の遺伝子安定性をさらに損なうことによって、このシナリオを悪化させることになる。

老化細胞における有害なDNA修復
DNAは内因性および環境的な因子の両方による不断の攻撃にさらされている。その保全が重要であることから、細胞はこうした脅威と戦うために、一般的にDNA損傷応答(DDR)と呼ばれる複数のメカニズムを発達させた。これらのメカニズムはDNA損傷を検出し、DNA複製または分離を排除するために細胞サイクルを停止しながら、その修復を調整する(Jackson & Bartek, 2010)。DNA損傷が修復されずに残る場合、DDRは細胞死を発動したり、老化誘導によって細胞増殖を停止したりする。さまざまなタイプのDNA脂質のすべてのうち、DSBsは高度に有害であり、その存在はDDR監視システムを活性化する(Bekker-Jensen & Mailand, 2010)。DSBsは、電離放射線、酸化ストレス、あるいは複製ストレスによって生成されうるが、胚細胞の減数分裂性組み換え、発育中のリンパ球のV(D)J組み換えといった遺伝子的にプログラムされた過程においても形成されうる(Wyman & Kanaar, 2006)。DSB修復を担う主要な2経路が、非相同末端結合(NHEJ)(Lieber, 2008)と相同再結合(HR)(San Filippo et al., 2008)である。修復が起こる前に、DDRによってDSBが発信され、その結果、いずれの修復経路の場合にも関与する蛋白質が補充される。ATMDNA-PKcsによるヒストン変異体H2AX (γH2AX)のリン酸化反応がカスケード反応を発信する第一段階事象の代表例である(Rogakouet al., 1998)。γH2AXは、MDC1BRCA153BP1といった追加的なDDR因子の結合を可能にする。H2AXリン酸化反応はDSB箇所の形成から少しあとにその場で起こり、それが解消すると同時に消滅する。リン酸化ヒストンH2AXは免疫染色によって顕微鏡観察が可能であり、それが、DSBsを測定するために広く使われる代用物、γH2AX病巣をつくる。われわれは適正なDSB解像度における老化の影響に関する検証のこの部分を注目している(図3)。
3幼若細胞および老化細胞におけるDNA二重螺旋切断(DSB)誘導後のDNA損傷応答(DDR)。シグナル経路はMRN複合体の補充とともにはじまり、ATMリン酸化H2AXとともに継続する。ここに示すように、ヘテロダイマー(二量体)Ku70/80DSBと直接的に相互作用することもできるし、DSB隣接クロマチンのH2AXリン酸化反応を促進することもできる。修正されたヒストン構造(yH2AX)は、MDC1および53BP1集合体を起動してDSBを起こさせ、その後、ユビキチン・リガーゼ(酵素の一種)とその他のクロマチン改変因子の結合を促す。非相同末端結合(NHEJ)と相同的組み換え(HR)の両方からの蛋白質もまた損傷箇所に補充され、DSBを修復する。老化細胞はこの反応のさまざまな局面でDDR効率の減退を示す。これらの局面は図解の番号(14)で示されている。

加齢とともに減退するDNA損傷応答効率

老化細胞は幼若細胞に比べて、γH2AX病巣の数が多く、加齢とともにγH2AXレベルの上昇が認められることから、未解消DSBsの蓄積量が増えると報告されている(Sedelnikova et al., 2008; Joyce et al., 2011; Rübe et al., 2011)。老化細胞に自然発生的な病巣が多いだけではなく、低線量放射線に被曝したあと、有意に誘発される損傷も観測されてきた。われわれは実に、一回のマンモグラム診査のあと、乳房表面に適用された線量に相等するX線線量が、ガラス管内の老化したヒト乳房上皮細胞のyH2AX病巣が幼若な対照区試料に比べて多いという結果をもたらしたことを報告した(Hernández et al., 2013)。われわれの研究において、細胞はhTERTを形質導入され、テロメア消耗とその結果としての誤再結合事象の増加がγH2AX病巣の増加を説明するかもしれないという可能性を破棄した。さらに、ガラス管内の老化細胞が、損傷箇所におけるDDR蛋白質53BP1の補充に遅延を示しもした(Hernández et al., 2013)。DSB箇所におけるDNA修復蛋白質の補充率はこれらの結果と一致して、試料提供者の年齢と逆比例する可能性も過去に提案されていた(Sedelnikova et al., 2008)。加齢がDSB修復の主要2経路(NHEJHR)の効率を減衰する可能性が報告されていた。最近の研究はプラスミド連結反応法を用いて、老齢マウスのリンパ球が若いマウスのそれに比べて、NHEJ修復効率が貧弱であり、誤修復が多いことを示した(Puthiyaveetil & Caudell, 2013)。Seluanov et al.2004)は同様な方法を用いて、老化細胞の場合、幼若細胞に比べて、NHEJ効率が低いことを示した。その同じ著者らはまた、老化細胞のKu――切断された2つのDNA末端を近接させたままに保つのに鍵となる役割を担うNHEJ成分――のレベルが低くなっていることを観察してもいる(Seluanov et al., 2007)。年配者におけるNHEJ効率の低下は、持続性のDSBsが誤再結合事象と遺伝子不安定性を誘発する結果を招き、そしてまた、免疫細胞の数を減らし、免疫システムを弱体化する結果になりかねない有害なV(D)J組み換えにつながりかねない(Puthiyaveetil & Caudell, 2013)。免疫システムは多様な抗原受容体のレパートリーを駆使して、腫瘍の形成と進行を防いでいるので、NHEJ機能障害はやがて癌になりやすいシナリオを用意することになりかねない(Li et al., 2011)。

最近の報告が、HR経路もまたNHEJと同様に加齢とともに損なわれると示唆している。マオらは、放射線照射のあと、事前老化細胞がDNA損傷箇所にRAD51を補充するのに深刻な困難を見せたことを示した(Mao et al., 2012; Chowdhury et al., 2013)。RAD51は、姉妹染色分体が相同配列の相手を見つけるために侵入するのを抑える役割を担うので、HR経路において鍵となる要素である。RAD51の外来組み込みは興味深いことに、中年期の細胞の修復能力を救ったものの、事前老化細胞の場合は救い損ねており(Mao et al., 2012)、最も老化の進んだ細胞の場合、別の要素がDNA修復欠陥の原因になっているに違いないことを示唆している。要するに、加齢に関連する放射線感受性を分析する場合、DSB修復経路の機能障害を考慮しなければならない。加齢に関連する誤修復の厳密な性格は未知のままであるものの、浮かび上がってくる証拠は、細胞核内の損傷したDNAに対するDNA修復蛋白質の補充が、このいまだに探究されていない研究分野における約束の標的であることを指し示している。

DNAの損傷、炎症および加齢
細胞は、細胞質に取り込まれた外来DNAに対して、先天的な免疫反応を発動することで応じるのであり、適応免疫応答が機能するのは特定の病原体に限っているわけではない。細胞質ゾルのレトロウィルスから派生するエンドソーム(核内体)やDNA副産物における細菌やウィルスの二重螺旋DNAの蓄積は、免疫活性化の引き金を引く(Hemmi et al., 2000; Ishii et al., 2006; Stetson & Medzhitov, 2006)。好都合なことに、ウィルス組み込みのさいにDNA切断が起こりうるので、その細胞核は免疫DNAセンサーにとって検出不能でなくなる。したがって、核DNA損傷は慢性自己免疫応答の引き金を引く(Karakasilioti et al., 2013)。核DNA内のエトポシド誘発性のDSBsはこの意味で、インターフェロン・サイコカインの誘導および作用によって、炎症シグナルのカスケード式展開を促す(Brzostek-Racine et al., 2011)。ATMが不足する細胞は遺伝毒性ストレスに応答するさいにインターフェロン抑制に失敗するので、この反応に潜むメカニズムにはATMが関与しているのかもしれない(Pamment et al., 2002)。しかしながら、これらATM不足細胞はそれでも、DNA損傷以外の刺激に対する応答として、インターフェロンを活性化しうる。それ故。ATMは核内だけでなく、細胞質内にも存在する(Hinz et al., 2010)。DDR依存性インターフェロンの活性化が、ウィルス性のDNA損傷に対する進化的応答として発現し、細胞増殖を抑制するメカニズムとして働き、DNA修復または細胞死を促していると考えることもできる。

ここまでに既述してきた研究が先天的な免疫シグナル発信と誘発されたDNA損傷に対する細胞の応答との直接的な関連を明らかにしている一方で、加齢が根源的にシナリオを動かしていることもありうる。機能不全テロメア、DNA損傷、ならびにこれらの事象に対する持続的な応答はやがて、不可逆性の細胞サイクル停止状態である細胞老化を引き起こす。老化マーカーを帯びる細胞の数は加齢とともに、マウス(Krishnamurthy et al., 2004; Wang et al., 2009)と霊長類(Herbig et al., 2006; Jeyapalan et al., 2007)のさまざまな体組織において増える。老化は当初では、癌の進行を抑え、組織の修復を促す防護メカニズムとして理解されていたが、いまでは、この細胞メカニズムは両刃の剣として見られている(Campisi, 2011)。組織修復における老化の役割はおそらく、いわゆる老化付随分泌表現形(SASP)の進化として説明できる(Coppé et al., 2008)。SASPは、炎症性サイトカインIL(インターロイキン)-6IL-8といった因子の分泌を引き起こす。SASPが細胞老化を促進することによって腫瘍形成を抑える証拠があるものの、それが近隣の前癌細胞の成長を刺激することによって、癌の進行を促しもする。この作用に関する最も説得力のある証拠は、異種移植に関する研究によってもたらせられる。老化した線維芽細胞の相互注入はマウスとヒトの上皮腫瘍細胞の増殖を有意に刺激したが、非老化線維芽細胞の相互注入はそれを刺激しなかった(Liu & Hornsby, 2007)。癌は炎症に煽られた病理であり(Grivennikov et al., 2010)、老化生物体のSASPを含むサイトカインは、DNA損傷が引き起こす先天的な免疫応答とともに、炎症を刺激することによって、加齢に関連する癌に相乗的に寄与しうる。

核の構造と放射線感受性
核組織の加齢にともなう変化はRNA修復を妨げる

加齢にともなう変化は、核周縁構造の主要素、核薄層と核膜孔といった集合体で検出されてきた。これらの変化は、クロマチンの再構成と非遺伝的な改変を引き起こしうる。最近の研究は、核の構造とゲノムの統合性の維持と核膜の関連を明らかにし、老化にともなう変化がお粗末なDNA修復効果と忠実性をもたらしていることを示している。

ラミンはV型中間フィラメントであり、核内膜のすぐ内側に位置し、核薄膜という核質の全面をおおう網細工構造を形成している。A型ラミンの2スプライス変異種、ラミンAとラミンCは、ラミンBとともに、基本的な多くの核作用に関与している。そのなかでも、ラミン類はDNAの複製と修復に寄与している(Goldmanet al., 2004; Oberdoerffer & Sinclair, 2007; Mewborn et al., 2010; Camps et al., 2014)。ラミン類と加齢の関係は、A型ラミン類を記号化した遺伝子、LMNAの突然変異による稀な早期老化状態であるハッチンソン=ギルフォード・プロジェリア(早老)症候群(HGPS)の研究をとおして探究されてきた。こうした突然変異は、遺伝子表現形の変化、ヘテロクロマチン(異質染色質)組織、適正なDNA修復の失敗の原因になる未熟で機能不全な蛋白質(プロゲリン)の蓄積として説明される(Liu et al., 2005)。未熟な前ラミンAの蓄積は興味深いことに、高齢の個人の正常な真皮の線維芽細胞(Scaffidi & Misteli, 2006)、老齢化したヒトの線維芽細胞試料(Cao et al., 2007)、老化した血管の平滑筋細胞(Ragnauth et al., 2010)にも存在することが報告されている。したがって、正常な老化細胞におけるプロゲリンの生成は、欠陥のあるDNA修復、ヘテロクロマチン組織の変化、テロメア消耗といったラミノパシーで報告されたものと同様な表現形特性を誘発しているのかもしれない。

数件の報告がじっさいに、テロメアの消耗、核の統合性、およびDNA修復のあいだの緊密な関係を明らかにした。カオの研究グループは、正常な細胞の進行性テロメア消耗が、プロゲリンを生成するLMNAの微小接合部位を活性化して、上流域信号として働くことを実証した。彼らはまた、プロゲリンがテロメアにおける急性DNA損傷応答を誘発し、それがテロメア3過剰による脱保護を招いたことを示唆した(Cao et al., 2011)。脱LMNAマウス・モデルの場合、これと軌を一にして、プロゲリア細胞においてDSB箇所への53BP1RAD51の補充が遅れ、NHEJHR両経路の機能が損なわれるとともに、線維芽細胞のテロメアの構造と機能が変異していることが認められた(Liuet al., 2005; Gonzalez-Suarez et al., 2009)。さらにまた、A型ラミン類が53BP1の安定化に寄与し、プロテアソームの劣化を防いでいるようであり、ラミンAの表現形が損なわれると、53BP1が劣化すると示唆されている(Gonzalez-Suarez & Gonzalo, 2010)。ラミン蛋白質の喪失はまた、RAD51BRCA1プロモーターを縛り、その転写を禁じるp130/E2F4複合体の生成をとおして、HR経路の不全を誘発する(Haithcock et al., 2005; Redwood et al., 2011)。したがって、ラミン類の欠損症または突然変異は、無防備のテロメアを誘発し、DNA修復蛋白質の蓄積を妨げ、DSB修復を損なう結果を招く(Liuet al., 2005; Redwood et al., 2011)。正常な老化細胞はプロゲリンを修復しうるので、放射線被曝および/または酸化ストレスは年配者の遺伝子的な不安定性を誘発するかもしれない。

核膜孔複合体(NPCs)もまた、DDR劣化に寄与しうる。核膜孔複合体の機能不全は、クロマチン組織とDNA修復の維持に不可欠な蛋白質の喪失という結果になりかねない。NPCsは核の門番として働き、小分子の自由な拡散を許し、高分子の移動を固く規制している(Fernandez-Martinez & Rout, 2009)。核膜孔複合体構成因子の土台部の一部の寿命は例外的に長く(D'Angelo et al., 2009)、それ故、代謝回転(組織構成細胞の世代交代)の欠如が、加齢にともなう酸化ストレスにより、NPCsの劣化に寄与する(Savas et al., 2012)。損傷したNPCsは重要なことに浸透性が高く、チューブリンのような細胞質蛋白質の細胞核内混入を招く(D'Angelo et al., 2009)。浸透性NPCsはまた、DDR因子が核内に存在することを妨げ、DNA修復の非効率化を招く。要するに、加齢は核膜のいくつかの役割を損ない、ゲノムの統合性をリスクにさらす。

すでに阻害されている老化細胞の核組織を蝕む電離放射線

上記したような核ラミナの減衰やNPCsの混入といった加齢にともなう変化は、放射線に由来するDNA障害の適正な修復を妨げる。それ故、老化細胞に認められた放射線感受性の増大は、電離放射線がもたらした被害に対処しようとする、すでに機能を損なっているシステムの帰結なのかもしれない。電離放射線は前述したように、DNA障害を誘発するだけでなく、ROS生成によって核組織を乱す(図 4)。ラミナとNPCは実に、老化細胞内に蓄積し、また電離放射線被曝に誘発された遊離基に被曝することによって、機能的に改変されたのかもしれない。蛋白質の酸化損傷を示唆するカルボキシル類のレベル上昇が、これと軌を一にして、加齢にともなう損傷漏洩NPCsを生成する、例のヌクレオポリンに認められた(D'Angelo et al., 2009)。核ラミナが慢性または急性の酸化ストレスに被曝すると、その保存システイン残留物に不可逆的な損傷が起こり、機能を妨害する(Pekovic et al., 2011; Sieprath et al., 2012)。これらの結果に照らして、老化細胞に放射線を照射すれば、さらなる蛋白質の酸化を促し、その帰結として、放射線由来のDNA障害の修復を妨げ、それ故、ゲノムの統合性の維持を台無しにする、さらなる核の崩壊を招くという仮説は正当であると思える。
4加齢にともなう核の再組織化における欠陥の概念図。老化過程は、未熟で機能不全のプレラミンAの蓄積、ヘテロクロマチン(HC)領域の侵食、核膜孔の漏洩増加といった、核組織レベルの変化を引き起こし、細胞核におけるDNA損傷応答(DDR)蛋白質の補充を妨げる。放射線が加われば、活性酸素種(ROS)生成による酸化のため、NPCとラミンの機能をともに妨げる。

結論
放射線感受性と加齢のあいだに存在する緊密な関係に寄与する要素は数多くある。これらの要素によって、さまざまなコホートを対象とした疫学研究で報告されているように、年配者に認められる、放射線による癌リスク増大に関して、妥当と思われ、非排他的な説明がいくつか可能になる。加齢にともなう酸化ストレスの蓄積が核組織を乱し、その撹乱が適正な修復を妨げるのは、ありうることである。核組織は電離放射線によってもまた乱されるので、老化細胞は、被曝後に増強された影響をこうむる格好の標的になる。DDR障害はテロメアの消耗とともに、年配者における放射線由来の発癌症例の増加に寄与する。それでもなお、これらの加齢にともなう欠陥のあいだの複雑な相互作用は、交絡因子として働き、それぞれの要素が独立して働く寄与分の研究を非常に困難なものにする。それ故、放射線感受性が老化する生物体に影響をおよぼす様相に関する統合的な知見をもたらす研究が、実験計画をよりよく理解し、改善するために必要である。われわれは、加齢が錯綜した過程として見られなければならず、放射線はゲノムの統合性を保全する道に出現した腫れ物であると結論する。放射線感受性は加齢とともに増大し、平均余命が着実に伸びているので、年配者の安全を確保するために放射線防護対策を改善する必要がある。

謝辞
著者らは、紙幅に限りがあるため、引用を割愛せざるを得なかった労作の著者のみなさんに謝罪を申しあげる。著者らは、バルセロナ自治政府大学言語サービスの言語助言・翻訳部門に感謝を申しあげる。

資金
本研究は、AGがスペイン原子力安全委員会(CSN 2012-0001)ならびに欧州原子力共同体(Dark.Risk GA 323216)に供与していただいた助成金に支えられている。著者らは、カタルーニア政府に賜った2014-SGR-524助成金に感謝する。JCはスペイン癌対策協会ならびにカルロス三世健康研究所(CP13/00160)にご支援いただいている。LTは経済競争力省に賜った助成(SAF2013-43801-P)に感謝する。

利益相反
著者らは利益相反を有しないことを宣言する。

参照文献

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