2015年8月16日日曜日

軍事情報誌ディフェンス・ワン「米中関係が改善している一側面」~緊張をはらみながらも関係構築を模索する米中両国



米中関係が改善している一側面


201584日 ケダル・パヴギ KEDAR PAVGI 

南シナ海の緊張が激化し、オンライン窃盗が増加しても、軍対軍の接触は5年間連続して盛んになっている。

筆者
ケダル・パヴギは、ジョンズ・ホプキンス大学・国際問題先進研究大学院の修士課程学生。ディフェンス・ワン誌の元デジタル編集員であり、ガヴァメント・エクゼキュティヴ、フォーリン・ポリシーズ誌にも勤務。寄稿誌は、ディプロマット、ワールド・ポリティックス・レヴュー…  Full Bio

このところ米中間に摩擦が多いが、少なくとも一側面だけは20世紀以降に強くなっている。軍対軍の――低レベルの演習から大統領や最高司令官レベルの訪問にいたる――接触は2010年以降に頻度が増す一方であり、歴史的な回数に達する勢いである。

軍対軍の接触は過去においては、米中関係が悪化すると、真っ先に断ち切られていた。だから、最近の勢いの持続の裏に、なにがあるのだろう? また、軍対軍の接触は、国防の道筋の形成にどのように寄与するのだろう?

わずかな歴史上の先例

同盟国との正常な軍事関係には、最高レベル要人や司令官の会合から教育交流や軍事演習まですべて揃っている。公然の敵でさえ協力できる。米国とソ連は冷戦の最盛期にさえ広範におよぶ軍事関係を維持していた。だが、中国との関係は、どこか新しい。超大国が、地球規模の野心を持つ、地域的に影響力のある大国と交流しているのだ。

「今日のわが国と中国との関係に比肩しうる歴史的先例といえる関係は多くありません」と、全米アジア研究局の研究副部長であり、中国安全保障政策を幅広く研究してきた元国防総省職員、ロイ・キャンプハウゼンは述べた。両国関係をユニークにしているものは、政治体制の結びつきと性格、戦略的な信頼の欠如を招いた両国間の不幸な歴史です。これらを一緒にして考えると、米中関係のユニークな側面を見たいと人が跳びつく理由がわかります」。

米国当局者らは軍対軍の接触を関係構築と理解促進の方途としてみており、判断ミスと戦争を避けるのに有益だと考えている。国防総省幹部は、軍の「中国と地域への接近は、関心の持続、国際関係とメカニズムの構築にもとづいており、指導者レベル、実務レベル、それに艦船や航空機の運用実務者間の安定性の構築に役だっている」と語った。

米国はまた、そのような接触を用いて、中国政府に透明性を促し、世界先導国としての登場を導こうとしてきた。「中国は明らかに台頭国であり、わが国はそのことを理解するように努め、国際システムの範囲内に同国の台頭を管理する必要がある」と、2012年と2013年に政策担当の国防次官を務めたジェイムズ・ミラーは発言した。

中国としてはかねてから長く、軍対軍の接触を道具としてよりも、信号としてみなしてきたようである。中国政府は外交関係の状態に応じて接触を断ったり再開したりしてきたと、米国太平洋軍を率いた退役提督であり、在中国大使を務めたジョセフ・プリュアーはいう。1990年代のように関係が暖かい時期には、軍の接触はかなり盛んであり、広範にわたっていた。1990年に米軍がベルグラードの中国大使館を誤爆したり、2001年に中国軍戦闘機が米軍偵察機を海南島に着陸させたりしたあと、関係が冷え込んだとき、軍対軍の接触は真っ先に絶たれた。


プリュアーは、軍対軍の接触がそのかなり上層部過重の性格のために、さらに複雑になっているという。米中両国の非常に上層の当局者らの接触は良好であるが、低層部の結びつきはまだ進展していない。

「軍対軍の関係が深い国ぐにでは、ともに育ち、たがいに15年間も知っており、ともに通学し、個人的関係を育んで、軍の直接関係を強める若手将校たちがいます。そして、もちろん中国では、このような個人的な関係はいかなる類いの公式協定にも優先します。個人的関係は公式協定より重要なのです」と、プリュアーは語った。だが、「低層部には、そのような接着剤は存在しません」と彼はいう。

しかし、上層部の関係でさえも奥行きがない。中国の「階層化され、中央集権化した意思決定過程」のため、軍人や当局者らは信頼を構築する種類の交流を控えていると、2009年から2011年までアジア太平洋安全保障問題担当の国防次官補を務めた退役海兵隊司令官、ウォレス・「チップ」・グレグソンは語った。

また、23年ごとに――国防次官から下位職まで――担当者が変わる米国の慣わしのおかげで、関係を構築する十分な時間もない。2004年から2007年まで在中国米国防総省武官を務めた退役空軍中将、ラルフ・ジョディスは、中国の当局者らが外国人との関係を、朋友、良友、老友にランク付けしてみていると説明してくれたと語った。米国の当局者らは最初の訪問で朋友になり、2回めで良友、3回めで老友になる。中国の当局者らは、実質的な政策変化を実現するためには、老友になる必要があるといっていた。

「とこらが、彼らは太平洋軍司令官に向かって、『あなたは通常の場合、2年か3年、太平洋軍司令官に在職しておられるだけなので、1回か2回、お目にかかれるだけで、老雄になるのは無理です』というのです。回数は、それ自体が質になります」と、ジョディスはいった。

安易な関係構築の障害は、他にもある。米国連邦議会は2000年、軍対軍の接触を重要情報を暴かれるリスクになるとして違法化した。米国当局者らは、交流の透明性と相互主義の欠如、相互訪問の過重なランク付け感を常日ごろ不満に思っている。すると、両国間の摩擦の種が増える。米国は台湾に武器を売却して、台湾を支持する姿勢を見せ、ネットワーク侵入とデータ窃盗の事件が起こり、空海軍事行動が米中両軍部隊を接近させさえする。

米中両国は目下、アデン湾における海賊とテロに対する作戦など、いくつかの分野で協力している。2月に中華人民共和国国防部の外事弁公室長であるリ・ジ准将が率いる12名の代表団が国防総合大学を訪問するなど、中国軍当局者らは、米国の軍事教育機関を定期的に訪問している。上級国防当局者が、軍対軍の接触によって、「過去2年間にわたり、前向きの勢いが維持され、二国間関与を深め、リスク削減方策の開発促進が図られた」と述べた。

米中両国軍はまた、人道援助活動においても協力してはいるが、この分野では広範な協力はしてこなかった。グレグソンは、「中国から参加のレベルを高める意志を感じ」なかったという。

連邦議会の議員たちもまた、そのような接触を疑わしく思っている。「議員たちの大半は、中国人がわれわれよりも多くの取り分を獲得すると信じている」と、対中政策に深く関わってきたランディ・フォーブス議員(共和党、ヴァージニア州)はいう。

フォーブス議員の推測によれば、ペンタゴンは中国代表団を招いたり訪中したりして、あまりにも長く関係構築に努めてきたが、見返りは少なかった。彼は過去何年にもわたり、当時のチャック・ヘーゲル国防長官、その他に対して、一歩退いて、米国が努力の見返りに得たものを正確に評価すべきだと説得をしてきた。「ペンタゴンには『われわれが接触すればするほど、よくなる』と言いだす輩がやたらといます。わが国の政策が有効であるかを測定するための基準が常に必要であり、政策がどんなものか、わからないことには、それが有効であるか、測定するための基準を定めることができません」と、フォーブスはいう。

究極の疑問

それでも米軍上層部指導者たちは、軍対軍の関係を醸成しようと決心しているようである。アジア太平洋安全保障問題担当のデイヴィッド・シーア国務次官補は5月、東シナ海と南シナ海における中国の行動を批判した。しかし、彼はまた、政府は「軍対軍の結びつきによって。透明性を確率し、中国との理解を改善すること」を欲しているともいった。米国太平洋軍を率いるハリー・ハリス司令長官は先月、人工的に拡張した岩礁に軍事拠点を建設していると中国を非難したが、傘下の軍隊が中国軍との関係を醸成することを願っているとも付言した。

諸国そのものが、ますます相互に結び合っていくので、これが大勢である。米国がアジア太平洋における役割を担いつづけ、核武装2か国がたがいに接近しあうにつれ、軍対軍の関係はこれまで以上に重要になる。

政策担当の元責任者、ミラーはこう語った――「戦争は不可避であるか否かは、これを基盤にしています。とりわけこの政権は、戦争が不可避でないが、ありうることであると計算し、中国と協力するのと同時に、強い同盟と強い軍事力とその他の可能性の立場から、中国との協力を進める方策を遂行します」。

米国は、イスラム国が転移をつづけるなど、多国間的な脅威が存在するいま、二国間関係を超えて、中国の協力を必要とするようになるだろう。ペンタゴンの計画立案者たちはまた、人道および災害対応活動にも中国軍の協力を望んでいる。

ここに究極の疑問がある。軍対軍の関係は開戦の危機に役立つのだろうか? グレグソンはこういう――「このように考えると、軍司令官が太平洋のどこかで、何かするというわけにはいきません。危機の渦中にあって、軍対軍の議論をしているわけにはいかないのです…中国側の高級将校が、地位を危険にさらしたり、もっと悪いことになることなしに、議論できる環境にないとわたしは見ています」。

キャンプハウゼンは、それでも政策立案者らは軍対軍の結びつきが両国政府間の正常で健全な活動であるという姿勢を採用すべきだという。「われわれが協力して実現すべきことは、国際安全保障目標と同時に、両国の利益にも役立つはずです」。

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