韓国医科学ジャーナル Journal of Korean Medical Science |
J Korean Med Sci. May 2013; 28(5): 693–699.
PMCID: PMC3653081
子どもと青年の分化型甲状腺癌:
延世大學校醫療院における27年間の経験
Differentiated Thyroid Carcinoma of Children and Adolescents:
27-Year Experience in the Yonsei University Health System
延世大學校醫療院における27年間の経験
Differentiated Thyroid Carcinoma of Children and Adolescents:
27-Year Experience in the Yonsei University Health System
Seulkee
Park, Jun Soo
Jeong, Haeng
Rang Ryu, Cho-Rok
Lee, Jae Hyun
Park, Sang-Wook
Kang, Jong Ju
Jeong, Kee-Hyun
Nam, Woong
Youn Chung, and Cheong
Soo Park
要約
小児期および青年期における甲状腺癌は稀である。本研究の目的は、延世大學校醫療院で診療した小児科患者における甲状腺癌の臨床徴候および臨床転帰を分析することにあった。われわれの施設において、1982年9月から2009年6月にかけて、分化型甲状腺癌の患者が90名(女性75名、男性15名、女:男の比率は5:1)確定された。診断時の平均年齢は15.8歳(最年少4.8歳~最年長19.9歳)であった。診断において最も多く共通する臨床所見は頚部腫瘤であり、65名の患者に認められた(72.2%)。42名の患者が甲状腺の部分摘出手術を受け、18名の患者が全摘出手術を受けた。手術時点において、患者の30名(33.3%)に横頸部リンパ節転移が認められ、7名(7.8%)は肺に転移していた。再発は90名の患者のうち、14名(15.5%)に認められた。患者たちに対する平均追跡観察期間は81.6か月(最短13か月~最長324か月)であった。分化型甲状腺癌で死亡した患者はいなかった。20歳未満の分化型甲状腺癌の患者には、悪性の風土病症状、高頻度のリンパ節転移と遠隔転移が認められた。小児甲状腺癌はたいがい、徴候が認められしだい、甲状腺摘出やリンパ節切開といった適切な外科手段をもって対処することが推奨される。
キーワード:小児科甲状腺癌、分化型甲状腺癌、臨床転帰*、小児および青年、生存率
Keywords: Pediatric Thyroid Cancer, Differentiated Thyroid Cancer, Clinical Outcome, Children and Adolescents, Survival Rate
Keywords: Pediatric Thyroid Cancer, Differentiated Thyroid Cancer, Clinical Outcome, Children and Adolescents, Survival Rate
*訳注:転帰=病気の経過の帰結
序論
小児および青年における原発性の甲状腺癌は稀であり、小児科悪性腫瘍総数の0%~3%を占めるにすぎない(1-4)。散発的な分化型甲状腺癌(乳頭濾胞および混合乳頭濾胞)が最も一般的な子どもの内分泌悪性腫瘍であり、思春期後の子どもの場合、最も顕著な特徴として、女性患者が優勢になる(5)。小児科患者の場合、濾胞性甲状腺癌は甲状腺乳頭癌よりも稀である。また、退形成性の未分化甲状腺癌は極めて稀である。小児年齢群において、散発性の甲状腺髄様癌(MTC)は稀であり、多発性内分泌腺腫(MEN)IIA型およびIIB型の徴候として発現することが多い(6)。
小児患者の分化型甲状腺癌は、成人の甲状腺癌とは臨床症状や臨床転帰が異なっている。総生存率が95%を超えるものの、小児甲状腺癌は診断時にリンパ節転移および肺転移を伴って進行していることが多く、甲状腺手術の後、局所再発が成人の場合よりも多い(7-9)。しかしながら、病状が進んでいても、小児患者の予後は優れて良好であり、死亡率が低い。
適正な治療法を求めて、小児甲状腺癌の予後因子を評価することを企てた研究がいくつかあるが、予後因子の評価はまだ不十分である(9)。ランダム化研究が不足しているので、最適な初期外科治療には議論の余地が残っており、転帰に対する初期手術の影響は不明確なままである(3)。リンパ節摘出を伴う甲状腺全摘出術には再発率を減少させる効果がある(10, 11)が、副甲状腺機能低下症ならびに声帯損傷のリスクが大きい。小児患者の場合、根治性を控えめにした手術を提唱する治験担当医師も何人かいた(11, 12)。
本研究は、延世大學校醫療院における27年間の小児集団の甲状腺癌の臨床徴候および臨床転帰を分析し、小児集団の分化型甲状腺癌に対する適切な治療について考察する。
資料および手法
1982年から2009年までに延世大學校醫療院において、94名の小児患者が原発性甲状腺癌(分化型甲状腺癌90名、甲状腺髄様癌4名、甲状腺乳頭癌78名、濾胞性甲状腺癌12名)により甲状腺手術を受けた。甲状腺髄様癌の患者は除外された。小児年齢を20歳未満と定義する。遡及的に評価した医療データは、性別、手術時の年齢、臨床病理学的特性、TNMステージ(腫瘍節転移段階)、手術の型、術後合併症、再発率、死亡率を評価した。臨床病理学的特性として、診断時の主訴、腫瘍サイズ、甲状腺外拡散、多病巣性、両側性、家族歴、甲状腺炎およびリンパ節関与などがある。病理学的段階診断は、初回診断時に第7次「対癌米国合同委員会」段階診断規定を採用した。
われわれの施設では、甲状腺切除に甲状腺全摘出と甲状腺部分摘出とがある。「甲状腺部分摘出」の定義は、片側の甲状腺葉切除、同側の甲状腺全摘出および対側性の甲状腺部分摘出、同側の甲状腺全摘出および対側性の甲状腺亜全摘出として特定される。外科施術範囲はATA(アメリカ甲状腺学会)ガイドライン(13)にもとづいていた。甲状腺切除のさい、原発性腫瘍の同側部にある中央区画リンパ節(CCLN)のみが予防的に解剖された。CCLNまたはレベルVIは、気管前、気管傍、咽頭前方、甲状腺周りの結節および反回神経沿いに位置するリンパ節である。中央区画は舌骨によって優勢的に、胸骨ノッチによって劣勢的に、頸動脈鞘の中央部によって横方向に、椎前筋膜によって背側を区切られている。すべての症例において、再発喉頭神経と副甲状腺が同定され、保全された。手順は同じ外科チームによって実施された。手術前の評価のさい、患者に横リンパ節転移の徴候が認められた場合、補正された根治的頸部郭清を行った。外科手術後6週間以内に放射性ヨウ素法残留物除去を実施した。この患者コホートに対する放射性ヨウ素法除去の適用は、ATAガイドラインにもとづいていた(13)。放射性ヨウ素(RI)療法の2日目にヨウ素131ホールボディ・スキャンを実施した。子どもたちに投与する放射性ヨウ素の用量は患者の体重にもとづいて計算した(0.5~1.5 mCi/kg)。患者全員に対して、ATAガイドライン(13)にもとづき、レボチロキシンによる甲状腺刺激ホルモン抑制処置を施した。手術後の再発について、3か月ごと、または6か月ごとの定期追跡検査を実施して評価した。再発が疑われる患者全員について、細胞学と組織学のいずれか、または両方によって確認した。追跡検査データは2011年12月分までに分が遡及的にカルテとして得られた。この遡及的研究は延世大学セブランス病院の治験審査委員会に承認された。
倫理声明
本研究は、韓国ソウル、延世大学医学校セブランス病院の治験審査委員会に承認されている(IRB No. 4-2010-0476)。インフォームド・コンセントは委員会によって免除された。
結果
集団
われわれの施設において、90名の患者(女性75名、男性15名、女:男の比率=5:1、乳頭癌78名、髄様癌12名)が未分化型甲状腺癌の手術を受けた。診断時の平均年齢は15.8歳(女16.3歳、男13.3歳、最年少4.3歳~最年長19.9歳)だった。
臨床プレゼンテーション
頚部腫瘤は、最も一般的な主訴であった。65名(72.2%)の患者に頚部腫瘤があり、そのうち50名のものは前頚部腫瘤、15名のものは横頚部腫瘤であった。その他の初期病因として、偶発性腫瘍が(甲状腺疾患の追跡検査またはスクリーニング検査で見つかった患者を含め)18例、嗄声が2例、頚痛が1例あった。患者1名は甲状舌管嚢胞が認められてシストランク(甲状舌管嚢胞の完全切除)手術を受け、最終診断として甲状腺乳頭癌と確定された。患者1名は耳下腺炎(おたふく風邪)の治療中に肺転移を伴う甲状腺癌と診断された。気胸手術中の患者1名に肺転移が見つかり、肺の楔(くさび)切除を施したが、その後、甲状腺乳頭癌が確認された。患者1名は左下顎に横紋筋肉腫があって、電離放射線被曝療法を受けた既往歴があった。その患者には、左鎖骨の軟骨肉腫、左膝の骨肉腫という複数の悪性腫瘍があった。患者は化学療法と放射線療法を施された(表1)。
小児甲状腺癌患者の初期診断における臨床徴候
パラメーター
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|
No.(n=90)
|
%
|
平均年齢(歳)
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15.8(最年少4.3~最年長19.9)
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5歳未満
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1
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1.1
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5歳以上15歳未満
|
|
23
|
25.6
|
15歳以上20歳未満
|
|
66
|
73.3
|
性別
|
|
|
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男/女
|
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15/75
|
1/5
|
症状のある期間
|
|
8.3か月
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主訴
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頚部腫瘤
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65
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72.2
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前部
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50
|
|
|
側面
|
15
|
|
|
偶発性腫瘍
|
18
|
20
|
|
嗄声
|
1
|
2.2
|
|
甲状舌管嚢胞
|
1
|
1.1
|
|
頚痛
|
1
|
1.1
|
|
耳下腺炎
|
1
|
1.1
|
|
気胸
|
1
|
1.1
|
|
横紋筋肉腫
|
1
|
1.1
|
外科手術
外科的治療の内訳は、甲状腺部分摘出(42例、46.7%)、甲状腺全摘出(18例、20%)、補正根治的頸部節郭清を伴う甲状腺全摘出(30例、33.3%)であった。患者30名には横方向の首節転移があり、患者16名が、中心区画節郭清(CCND)および片側補正根治的頸部郭清(MRND)を伴う甲状腺全摘出を施され、患者14名が、CCNDおよび両側WRNDを伴う甲状腺全摘出を施された(表2)。
手術方法の概要
手術方法
|
|
患者数(計 90名)
|
部分摘出
|
|
42
|
|
肺葉切除および狭部切除
|
30
|
|
同側全摘出および対側部分摘出
|
8
|
|
同側全摘出および対側亜全摘出
|
4
|
甲状腺全摘出
|
|
18
|
全摘出および同側MRND
|
|
16
|
全摘出および両側MRND
|
|
14
|
病理学的特性
腫瘍の平均サイズは23.6 mm(最小2 mm~最大60 mm)であった。微小癌が18例(20%)にあり、微小癌を伴う横首節転移が認められる患者が6名(6/18、33.3%)いた。両側性が患者17名(18.9%)に認められ、多病巣性が患者26名(28.9%)に認められた。甲状腺外拡散が51例(56.7%)で顕著だった。瀰漫(びまん)性甲状腺炎が患者16名(17.8%)に見られた。中央リンパ節転移が顕在化していた患者が50名(60%)、横方向の首節転移が顕在化していた患者が30名(33.3%)いた。中央リンパ節転移のない患者30名のうち、患者3名(10%)に横頸部リンパ節転移が認められた。患者2名は、治療のために神経を切開する手術中に反回神経浸潤が見つかった(表3)。加えて、TNMステージ(腫瘍節転移段階)に関して、ステージIとステージIIの構成は、それぞれ83例(92.2%)と7例(7.8%)であった。
小児甲状腺癌患者の病理学的特性
所見
|
症例数 (%)
|
腫瘍の平均サイズ(mm)
|
23.6 mm
|
微小癌腫
|
18(20)
|
甲状腺炎
|
16(17.8)
|
両側性
|
17(18.9)
|
多病巣性
|
26(28.9)
|
甲状腺外拡張
|
51(56.7)
|
中央リンパ節転移
|
54(60)
|
横方向の首節転移
|
30(33.3)
|
神経浸潤
|
2(2.2)
|
スキップ転移
|
3/30(10)
|
放射性ヨウ素(RI)療法
初回診断時に肺転移が認められた患者48名のうちの41名(85.4%)に、手術後RI療法が施された。患者41名(男9名、女32名、男女比1:3.6)の平均年齢は、15.6歳(最年少5歳~最年長19.9歳)であった。腫瘍サイズは23.5 ± 12.6 mm。初期の非肺転移患者に投与したRI線量の範囲は、最小30 mCi~最大750 mCiであった。RI療法を施された初期の肺転移患者に対する線量の範囲は、最小150 mCi~最大1,050 mCi(1~5回)であった。患者1名は外照射療法を施された。
再発
平均追跡検査期間は81.6か月(最短13か月~最長324か月)であり、甲状腺癌によって死亡した患者はいなかった。追跡検査期間中、再発が患者14名(15.6%)に認められた。再発は、横頸部(6例、42.9%)、手術箇所(4例、28.6%)、対側甲状腺および横頸部(2例、14.3%)、残りは対側甲状腺(1例、7.1%)、手術箇所および横頸部(1例、7.1%)に見られた(表4)。これらの患者は、完了甲状腺全摘出、WRND(片側補正根治的頸部郭清)、RI療法といった適正な療法で治療された。無再発生存率は初回手術の5年後で88.9%、10年後で78.9%であった(図1)。患者2名は、非特異性疾患が原因で死亡した。患者1名は白血病に起因する頭蓋内出血で死亡した。散在性横紋筋肉腫を患っていたもうひとりの患者は、多臓器不全により死亡した。分化型甲状腺癌によって死亡した患者はいなかった。初回手術後、再発の認められた患者14名のうち、5名は肺に転移しており、RI療法および甲状腺刺激ホルモン(TSH)抑制による治療を受けた。
未分化型甲状腺肉腫の小児科患者の無再発生存率
初回手術後の再発の部位
部位
|
症例数(計14例)
|
横頸部
|
6
|
手術箇所
|
4
|
対側甲状腺および横頸部
|
2
|
手術箇所および横頸部
|
1
|
対側甲状腺
|
1
|
甲状腺乳頭の微小癌
患者18名(20%)に腫瘍サイズ10 mm未満の癌が認められた。平均年齢は16.9歳(最年少6歳~最年長19歳)であり、男:女の比は1:17だった。患者9名は追跡検査期間中のスクリーニング検査で偶然に甲状腺疾患(甲状腺腫、甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症)が診断され、患者6名に前頚部腫瘤、患者3名に横頚部腫瘤が認められた。平均腫瘍サイズは6.4 ±
2.6 mm(最小3 mm~最大10 mm)だった。患者1名は両側性疾患、患者4名は多病巣性疾患があった。甲状腺外拡張は8例で起こった。患者6名は瀰漫(びまん)性甲状腺炎にかかっていた。中央リンパ節転移は患者18名のうち、12名(66.7%)に顕著だった。横首節転移のある患者18名のうち、6名(33.3%)は中央リンパ節切除と同側補正根治的頸部郭清を伴う甲状腺全摘出を実施された。初回手術の事後、患者1名のみが手術箇所の甲状腺癌再発に見舞われた。
肺転移
手術時点において、甲状腺乳頭癌7例(7.8%)に肺転移が見つかった。外科切除(MRND[片側補正根治的頸部郭清]を伴う場合もあれば、伴わない場合もあるが、CCND[中心区画節郭清]を伴う甲状腺全摘出)のあと、患者の体重を考慮しながら、放射性ヨウ素療法およびTSH(甲状腺刺激ホルモン)抑制療法が加えられた。肺転移のある患者7名のうち、1名は外照射療法が施された。
術後合併症
患者24名(26.7%)は低カルシウム血症(19名は一過性、5名は永続性)による術後合併症にかかった。偶発性の再発性咽頭神経損傷は認められなかったが、反回神経の腫瘍封じ込めを意図して、切除を2例おこなった。術後出血および感染は認められなかった。
年齢の異なる集団間の臨床病理学的特性の比較
甲状腺癌患者を診断時年齢にもとづいて2集団(小児:15歳未満、青年:15歳以上、20歳以下)に区分し、その臨床病理学的特性を比較した(表5)。甲状腺癌患者の年齢集団にもとづいて臨床病理学的特性を比較すると、甲状腺乳頭癌、甲状腺炎の有無、中央リンパ節転移、遠隔転移率にかかわる病理学的診断の割合に関して、年齢集団間の統計的に有意な違いはなかった。しかしながら、男女比、腫瘍サイズ、手術方法、甲状腺外拡張、両側性、多病巣性、横リンパ節転移率に関して、2集団間に有意な差異が認められた。男:女比は、15歳未満の集団で1:1.18、15歳以上の集団で1:15.5だった。両集団とも、女性の比率が高かったが、男性の割合が幼い方の集団で有意に高かった(P=0.001)。それにまた、この幼年齢集団には、高くなる甲状腺外拡張、両側性、多病巣性、大きくなる腫瘍サイズ(それぞれ、P=0.001、P=0.001、P=0.016、P=0.007)といった、より悪性の因子が認められた。15歳未満の集団により悪性の因子があったとしても、無再発生存率(P=0.258、図2)と再発率(P=0.187)には両集団間に有意な違いはなかった。
年齢別集団間の無再発生存率の比較
年齢別集団間の臨床病理学的特質の比較
特質
|
|
15歳未満
計24人(%)
|
15歳以上20歳以下
計68人(%)
|
P値
|
手術時年齢(歳)
|
|
10.83±3.06
|
17.64±1.28
|
0.001
|
性別
|
男
|
11(45.8)
|
4(6.1)
|
0.001
|
|
女
|
13(54.2)
|
62(93.9)
|
|
最大腫瘍サイズmm
|
|
29.96±12.63
|
21.25±13.58
|
0.007
|
病状
|
甲状腺乳頭癌
|
20(83.3)
|
58(87.9)
|
0.726
|
|
甲状腺髄様癌
|
4(16.7)
|
8(12.1)
|
|
手術方法
|
部分摘出
|
7(29.2)
|
35(53.0)
|
0.006
|
|
CCND+全摘出
|
2 (8.3)
|
16(24.2)
|
|
|
片側MRND
|
6(25.0)
|
10(15.2)
|
|
|
両側MRND
|
9(37.5)
|
5 (7.6)
|
|
甲状腺外拡張
|
あり
|
21(87.5)
|
30(45.5)
|
0.001
|
両側性
|
あり
|
11(45.8)
|
6 (9.1)
|
0.001
|
多病巣性
|
あり
|
12(50.0)
|
14(21.2)
|
0.016
|
考察
小児集団の甲状腺癌は稀なタイプの悪性腫瘍であり、成人の甲状腺癌に比べて異なった腫瘍特性を見せる。小児甲状腺癌は悪性であり、初回診断時点におけるリンパ節転移および肺転移の発現率が高く、手術後にも頻繁に発現する(7-9, 14)。しかしながら、予後は優れて良好である。この矛盾の理由は不明確であるが、小児甲状腺癌に関する仮説がいくつか提案されている。ジマーマンらは、小児甲状腺癌における非二倍体DNAが10%であり、成人甲状腺癌におけるそれが20%であったと報告した(8)。他の可能性として、幼児期および小児期の甲状腺は発癌刺激に対する感受性が高いということが考えられる。若年期患者の場合、TSH(甲状腺刺激ホルモン)がより卓越した役割を演じているのかもしれない。したがって、手術後の甲状腺ホルモン補充と併せて、TSHを抑制すれば、より効果的であり、小児甲状腺癌において、十分に分化した癌腫から分化の不十分な癌腫への脱分化は滅多に起こらない(9, 15)。
分子レベルの研究もいくつか実施されている。しかし、そのような違いの生物学的根拠は基本的に未知のままである。悪性の甲状腺癌にかかった年長患者の場合、BRAF V600E突然変異体がより一般的であると報告したり(16)、甲状腺乳頭癌の子どもの場合、RET/PTC1再配列がより一般的であると報告したり(17, 18)する研究が数件ある。
われわれの研究では、甲状腺癌の症例数は年齢とともに増加し(5歳未満=1例、5~15歳=23例、15~20歳=66例)、最年長集団が全患者数の73.7%を構成していた。われわれの研究では、リンパ節転移の発症率が高いことが示された(60%)。小児集団におけるリンパ節転移発症率は成人のそれに似通っており、後者の場合、無症状の中央リンパ節転移の有病率は成人甲状腺癌症例数の80%に達すると報告されている(19, 20)。
われわれの研究では、患者14名が再発に見舞われた(全体の15.6%)。この再発率は、35~40%という先行報告値(1, 4, 7, 8)よりも低い。分化型小児甲状腺癌の症例のうち、濾胞性甲状腺癌にかかっていた患者12名は再発しなかった。われわれの研究では、中央リンパ節転移の発症率は高かったが、再発率は低かった。この再発率の低さは、小児患者と成人患者の両者に対する、われわれの制度的な方針――腫瘍サイズが小さくとも、甲状腺癌患者の予防的な中央リンパ節切除が必要であるとする方針――の適用を支持している。
複数の因子の関連について、小児甲状腺癌の前兆となる因子を論じた研究がいくつかあるが、われわれの研究は、年齢、性別、包外浸潤、両側性、多病巣性、甲状腺炎、中央リンパ節転移、横頸部節転移、手術のタイプ、RI療法といった因子と再発との関連をなんら明らかにしなかった。患者の年齢と再発とのありうる関連について、研究がなされた。いくつかの研究は10歳未満または15歳未満の子どもたちの再発率が高くなると報告した(4, 7)が、他の研究はこの関係を確認しなかった(21)。
現在の研究で最も印象深い知見は、患者18名(18/90、20%)に甲状腺乳頭微小癌腫(PTMC)が認められたことである。PTMCは通常、不活性であり、成人甲状腺癌の場合、術後にRI療法を実施することが多いが、外科的な甲状腺適切によって治癒可能である(22-24)にもかかわらず、PTMC患者は、リンパ節転移を有する患者の3.1%~18.2%を占め、局所領域の再発に見舞われる患者の20%に達する。しかしながら、本研究は、中央リンパ節転移(12/18、66.7%)および横頸部転移(6/18、33.3%)の発症率が高いことを示した。その反面、PTMC患者の初回手術後の再発率は低かった(1/18、5.6%)。PTMC患者に横頸部節転移があっても、肺転移と再発がなかった。横頸部節転移の認められた患者6名のうち、横頸部節転移だけで、中央リンパ節転移のないスキップ転移のあるものが1例あった。最初の癌サイズが1 cm未満であっても、PTMC患者の横頸部節転移を伴う転移性リンパ節のために、主訴は頸部の歴然たる腫瘤(5/6、83.3%)だった。これまで小児PTMCに関する研究は稀だった。現在の知見でさえ、患者数が少なく、追跡検査期間が短いので限定的である。現在のデータでは、小児PTMCに関して、いかなる結論を出すにも不足している。しかしながら、小児甲状腺癌におけるPTMCは、稀でなく、リンパ節転移の発現率が高く、再発の頻度が低いこと、小児PTMCは成人のそれと同様に横頸部に転移しうることと結論できる。
小児甲状腺癌の治療には議論の余地が残っている。小児甲状腺癌の発症率が低いので、プロスペクティブ(前向き)臨床研究は実施困難である。いくつかの研究が、熟練医による中央リンパ節切除を併せた甲状腺全摘出が深刻な合併症を増やさないという考えを支持した(25)。その反面、保守的な段階的手法は、小児甲状腺癌の進行していない疾患の場合、外科的な合併症を防止することと過剰な外科手術を避けることを推奨してきた(8)。われわれの研究結果は、小児甲状腺癌の予後が優れて良好であっても、リンパ節切除を含む妥当な外科手術が手術後の再発を減らすのに必要であることを示唆している。もちろん、TSH(甲状腺刺激ホルモン)抑制は必須である。放射性ヨウ素投与線量は、体重によって、また特記されている場合には年齢に応じた追加的な安全因子により調整される。
結論を述べれば、われわれの研究は、小児甲状腺癌が初回診断時に悪性の病状を示すが、再発率および死亡率が低いことを示した。甲状腺乳頭癌を有する小児科患者の入院治療の最も一般的な理由は、触知できる頸部腫瘤であった。小児集団において、頚部腫瘤は甲状腺癌の徴候と考えるべきである。小児甲状腺癌が診断されれば、横頸部節転移および遠隔転移の可能性が考えられるので、さらなる精密検査を実施すべきである。小児甲状腺癌は主として適切な外科的アプローチを用い、徴候があるなら、甲状腺全摘出とリンパ節切除を実施すれば対処できる。
補足事項
著者らは開示すべき利益相反を有しない。
参照文献
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