1990年のこと、連邦政府は地質学者、言語学者、天体物理学者、建築士、アーティスト、作家を集めて、ニューメキシコ州の砂漠に招き、核廃棄物隔離試験施設を訪問してもらった。彼らには仕事が待っているはずだった。
WIPP提供 |
核廃棄物隔離試験施設(WIPP=Waste Isolation Pilot Plant)は米国で唯一の恒久的な地下核廃棄物埋蔵施設だった。核兵器製造と原子力発電所の放射性副産物である。WIPPは、さまざまな形態の核物質スラッジである廃棄物の流れだけでなく、工具や手袋など、放射性物質と接触した日常品も扱うように設計されていた。
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WIPPはニューメキシコ州の砂漠の地層深くに所在し、この放射性物質を貯蔵して、わたしたちをそれから安全に遠ざけておくように設計されていた。
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やがてWIPPは密閉され、放置されることになる。歳月が過ぎゆき、その歳月は数十年になる。その数十年は数世紀になり、その数世紀は数千年紀へと変遷してゆく。地上の人びとは来ては、去ってゆく。文化が興隆しては、衰退する。その間ずっと、地表の下では、廃棄物が詰め込まれた穴蔵が小さく、小さくなってゆき、やがて塩があのオイルのドラム缶すべてを呑み込み、埋葬する。その後、古い放射性の手袋や工具、爆弾の小片――すべて、いまだに放射性物質――は、200,000年以上にわたり地球の地殻の内部で固化されているだろう。基本的に、永遠に。
なにかを安全なまま永遠に貯蔵することは、途方もなく大きな設計上の問題を突きつける。じっさい、陪審団はWIPPが貯蔵問題の基本事項を解決したか否かに関して判断を保留している。2014年2月にはWIPPで放射能漏れが検出され(WIPP
Radiation Leak Study)、作業員らが放射能に被曝し、それ以降、施設は閉鎖されている。いまやエネルギー省が、WIPPの操業が全面的に再開されるまで3年はかかると予告する始末である。
こうした事実を知ることができるのは、わたしたちが共有言語で調べて、ニュースを読むことができるからである。前述の委員会が結成された目的は、この情報を10,000年後の未来の人びとに伝える方法を探すことだった。
1991年11月、WIPP標識検討委員会。ジョン・ロンバーグJon Lomberg提供。 |
このWIPP標識検討委員会が――10,000年を超えるような時間枠を考えるのは不可能だと考えて――これから10,000年間の人間にWIPPの場所を標識で認識してもらうことだけに責任を負うとしても、WIPP施設は何万年間も放射能汚染されたまま残る。
10,000年後の未来といえども、やはり実に想像を絶する。10,000年の昔、地球上に拡散しつつあった最大の新しいテクノロジーは、農耕だった。文化的にいって、わたしたちが当時に生きていた人びとと共有するものは、ほとんどなにもない。今から10,000年後の世界がどのような姿か、誰にわかるのだろう?
委員会はまた、より普遍的であると思えるシンボルを考えた。スマイリーのニコニコ顔は世界的にアピールする。顔のロゴマークはすでに警告のために使われている。
クレジット: Ocatecir |
だが、シンボルもまた時とともに変遷する。ドクロ・マークはじっさい、当初は死のシンボルではなく、再生のシンボルとして使われはじめた。その最古の使用例は、中世の宗教画と彫刻においてである。イエス・キリストが架けられた十字架の足元に、頭蓋骨と、「X」ではなく十字に組まれた2本の骨が描かれている。頭蓋骨はアダムのものとされている。
フラ・アンジェリコFra Angelico『十字架』。十字架の下に注目のこと。 |
数世紀後、船長らが航海日誌を記すさい、海で死亡した船乗りの氏名の横に小さなドクロ・マークを描きいれた。船乗りたちに死のシンボルが付きものになった。
時はたちまち移り、次の世紀。海賊どもは、餌食を脅して屈服させるのにシンボルを使えると了解した。だが、海賊が用いた「ジョリー・ロジャー」(海賊旗の別称)の他に、砂時計、血を流す心臓など、別デザインのものが数種類あった。エドワード・ティーチ(別名「黒髭」)の旗印には、両方(砂時計と心臓)とも描かれていた。
時はたちまち移り、次の世紀。海賊どもは、餌食を脅して屈服させるのにシンボルを使えると了解した。だが、海賊が用いた「ジョリー・ロジャー」(海賊旗の別称)の他に、砂時計、血を流す心臓など、別デザインのものが数種類あった。エドワード・ティーチ(別名「黒髭」)の旗印には、両方(砂時計と心臓)とも描かれていた。
その裁判のあと、頭蓋骨とクロスした骨は危険のシンボルとして文化に浸透した。1800年代末には、それが毒物のシンボルとして使われはじめた。さらに1940年代になって、ナチスはそれを親衛隊髑髏部隊の紋章に採用した。
上:キャラコ・ジャック・ラカムの旗印 下:ナチス親衛隊髑髏部隊の紋章 |
頭蓋骨とクロスした骨は世界中で危険と死を連想させるものになった。だが、その意味合いは必ずしも普遍的なものにはならなかった。ここ数十年間、ジョリー・ロジャーは主流になった。今では、バックパックや乳児用ワンピース、さらには水筒にさえも使われている。
検討委員会は言語とシンボルを除外して、なんらかの視覚的な物語について考えた。ジョン・ロンバーグ委員は、できごとの推移を3コマで描いて放射能のシンボルを定めることができると考えた。
だが、この漫画を逆から読めば、まるで登場人物が青春の泉を見つけたようにみえる!
もうひとりの委員、マイク・ブリルという名の景観アーティスト・設計者は、情報を未来に伝達することが必要だと理解した。人びとがこの危険な場所にいるのは恐ろしいと感じなければならない。彼は地面から突き立つ巨大な針――「針の景観」――を構想した。
しかし、この不気味な景観がそれ自体でアトラクションになり、じっさいに人びとを探求に誘うようにはならないなどとは知る方法もないことである。
キティ、色を変えてはいけない Don’t change color, kitty.
キティ、君の色を大事にするのだ Keep your color, kitty.
真夜中の漆黒のままでいるのだ Stay that midnight black.
色変わりが匂わす放射能は The radiation that the change implies
間違いなく殺す can kill, and that’s a fact.
以上、わたしたちの曽孫の曽孫の曽孫が決して知ることのない、人びとを守るための努力のすべてを語った。その一方、わたしたちの時代、現在の人びとはすでに核兵器製造の結果の悪影響をこうむっているのである。
フロリダ州タリヴァスト、ベリリウム精製工場跡。クレジット:ATSDR |
フロリダ州タリヴァストは、フロリダ州タンパの南にあるアフリカ系アメリカ人主体の小さな町である。1960年代、核兵器の構成部品とハッブル宇宙望遠鏡の部品を製造するために、ベリリウム加工工場が町の中心部に建設された。やがて、この施設は廃棄物の扱いが非常によろしくないと判明した。
タリヴァスト住民は、大勢の人たちが、癌、ベリリウム被曝による慢性ベリリウム疾患を含む、その他の疾患を診断されることに気づきはじめた。タリヴァストは、工場のオーナー企業、ロッキード・マーチンを相手に提訴した。ロッキードは訴訟を何年も引き延ばした。
これから10,000年後の人びとを守る最良の方法が、いまの時代に生きる人びとを保護すると確信するためには、どのようにすればいいのだろうと思ってしまう。
放射光線ネコがわたしたちの安全を守ってくださるように。写真出処:mnn.com。 |
99%インヴィジブル寄稿者、マシュー・キールティMatthew
Kieltyは、アーティストのジョン・ロンバーグ、考古学者のモーリーン・カプラン、WIPP監督役主任科学者のロジャー・ネルソンと対話した。
オリジナル・ミュージックはミュージシャンであるX皇帝Emperor
Xに提供していただいた。彼の歌「キティ、色を変えないで」はこれから10,000年間、あなたの頭にこびりつくことが保証済みである。この歌はX皇帝の最新作EP「核廃棄物埋蔵所の近隣住民を気落ちさせる10,000年の耳虫」 10,000-Year Earworm to Discourage Settlement Near Nuclear Waste
Repositories の一曲であり、Bandcampで入手できる。
Sacrifice
Zones著者、スティーヴ・ダナー、WIPPに関する新作映画を準備中のロブ・モス Robb Moss、The
Vergeのマット・ストラウドとジョーダン・オプリンガー、エネルギー省のエイブ・ヴァン・ルークにも感謝したい。
【姉妹記事】
2014年5月21日
では、このWIPPと呼ばれる廃棄物隔離試験プロジェクトとは、なんでしょう? 原子力と核兵器の両方とも、有毒な残り物、つまり毒性のゴミを残すわけですが、この廃棄物は高度に有毒な放射性の残骸であり、これが移動して、わたしたちの呼吸…
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米国ニューメキシコ州、謎の放射能漏れ現場に拡散する安全欠陥
2014年4月26日
放射能漏れは想定されるはずがない」(WIPP leaks 'should never occur')とされていた連邦政府所有のニューメキシコ核廃棄物処分場における放射能の空中漏出の原因は、木曜日(4月24日)に公表された米政府自体による調査報告によれ ば…
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