2015年9月13日日曜日

ゴダーズ・ジャーナル【論文解説ビデオ】バックグラウンド放射線と子どもたちの癌


バックグラウンド放射線と子どもたちの癌
Background Radiation & Cancer in Children






GoddardsJournal



2015/03/11 に公開

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放射線リスクに関する科学的合意事項を批判する人たちは、100 mSv以下の場合、リスクが増大することを示す証拠がないと主張します。

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しかし、100 mSv以下の場合のリスク増加を示す証拠は、これまでの数十年もそうでしたが、いまだに増え続けています。

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研究者らが2年前、小児白血病リスクとバックグラウンド放射線のあいだに、統計学的な有意な線量応答関係があると報告しました。

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線量応答関係は4グレイ以下でも有意でした。この値は実質的に4 mSvに相等しており、100 mSvといわれる100 mSvより遥かに低い線量です。

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そして、いま新たな研究が同じような知見を報告しています。

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この新しい論文の著者、スパイカーら(Spycher et al.)は、バックグラウンド放射線が小児白血病の増加に影響しているのかもしれないと結論しました。
[訳注]英語で「スパイカー」と発音しているが、Spycherのドイツ語圏発音は「シュピヒャー」。

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そして、彼らが研究した線量は、100 mSv以下ではなく、50 mSv以下のものでした。

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スパイカーらの結論は、スイス小児癌登録の症例から導きだされていました。

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1症例ごとにスイス国勢調査から100人を抽出して、コントロール(対照群)にしました。

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著者らは次に、宇宙線データに加え、自然由来および人為による放射線のデータによって、子どもたちが自宅で受けた合算放射線量を見積もりました。
*ナノ(n)=1/1000マイクロ(μ)。

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この図は、さまざまな種類の癌を評価した結果を示しています。リンパ腫を除く他は、すべて線量率に対して正比例する応答性が認められます。

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リンパ腫の場合、調査の期間を通して一定だったと著者らは記しています。したがって、この結果は、放射線に対してリスク無しという統計データと一致しています。

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著者らはまた、これら各種の癌を複合してひとつの癌、つまり「全癌」にまとめました。この場合でもやはり、統計学的に有意な線量応答関係が認められます。

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この線量応答性は、結果に影響をおよぼす交絡因子で補正しても変わりませんでした。
[訳注]交絡因子とは、調べようとする因子(線量率)の他にも、結果(危険率)に影響を与える可能性のあるさまざまな要因。
【交絡因子】上から①性別、②出生した年、③都市化の程度、④家族の社会・経済的地位、⑤居住家屋の混雑度…


⑥両親の教育程度、⑦出生時体重、⑧出生順位、そして、⑨高速道路、⑩TV・ラジオ送信機、⑪送電線からの距離

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この交絡因子による補正を3種類のモデルを用いて実施しました。

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これら3つのモデルによる補正結果は、おおむね元の線量応答関係と同じでしたので、潜在的交絡因子が結果に影響を与える原因になる可能性を除外してもかまわないことになります。

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この応答関係の原因が放射線であることを示す最も有力な証拠はおそらく、一定の居住地に住みつづけていた子どもたちの下位グループの場合に、この応答関係がさらに強かったことでしょう。

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人びとが居住地を変えるとバックグラウンド線量率が変わり、線量の区分けミスの原因になるかもしれません。ですから、居住地が一定している場合に最も正確な線量評価が可能になります。したがって、線量率とその結果の関係が正確であることの妥当性を高めることになります。

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全コホートのP値を見ることによって、居住地が一定の下位コホートの正確さがわかります。全コホートのP値を、右欄の居住地一定コホートのP値と比較すると、下位コホートのほうが低くなっています。

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これらP値は、線量率の場合でも、累積線量の場合でも低くなっていることが見て取れます。いくつかの列で、特に顕著なように、P値が低くなっているということは、癌転帰とバックグラウンド放射線の関係の妥当性が高いことを示唆しています。また、居住地が一定の下位コホートのP値が低いということは、この応答関係が事実であり、まさしくバックグラウンド放射線が原因であることを示す立派な証拠になります。

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これらのスパイカーらによる知見は、積みあがっていく証拠を新たに補強するものであり、統計検出力の強化を実証しており、子どもたちのコホート研究の知見は、100ミリシーベルト以下の領域における、統計的に有意なリスクの証拠が検出可能でありうることを示しています。

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わたしたちがこのビデオの初めで見たように、ケンドールら(Kendall et al.)は2年前、バックグラウンド放射線と小児白血病の統計的に有意な関係を報告しました。

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これまでにも、さまざまな手法の研究が実施され、いろいろな結果を示してきましたが、スパイカーらとケンドールらの研究が先立つバックグラウンド放射線研究に勝っていることを理解するうえで重要なことは、彼らの研究だけが個別データを解析する大規模なものであり、現時点までで最高の統計検出力を備えていることです。したがって、以前のバックグラウンド放射線研究とは違って、スパイカーらとケンドールらの研究は、そのような応答関係に対して最高の検出力を備えています。また、以前の研究はおおむね一般集団を対象にしていましたが、ケンドールらとスパイカーらは子どもたちに絞って研究しており、子どもたちの癌のほうが非常に稀で、症例の変化が顕著に現れるので、影響に対する検出力が高くなります。ですから、いくつかの理由により、放射線の影響を調べるなら、子どもたちのコホートは、最適な選択です。

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スパイカーらとケンドールらの違いと思えるものは、スパイカーらが全癌の増加を統計学的に検出したのに対して、ケンドールらは小児白血病の統計学的に有意な増加を検出したのですが、ケンドールらによる全癌の線量応答図を見てみると、全癌は検出していない点にあります。

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スパイカーらは、なぜそうなったのか、推測しておりませんが、スパイカーらが対象にした線量範囲がケンドールらのものより約2倍高い領域を含んでいますので、増加率が高くなることが予想されます。線量が高ければ、線量応答関係も高くなります。

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ケンドールらのものより高い領域を含むことによって、スパイカーらが線量応答関係を検出する可能性が高くなったのです。スパイカーらの研究は全癌のグラフで全範囲にわたりケンドールらのものより高い統計的な有意性を得ていますが、ケンドールらの線量が最も高い領域で、線量幅が狭いながらも上向きの傾向が見受けられることは、留意しておく価値があります。この上向きの傾向は線量応答がはじまったことを意味しています。ですから、高い線量の範囲が含まれていたなら、統計学的な有意性も上向きになると推測するのが合理的です。さて、スパイカーらのほうは、線量率が高い領域を含んでおり、最高の領域にいたるまで正確である、統制的な有意性を認めることができます。

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終わりに、スパイカーらの線量範囲とチェルノブイリの立入禁止ゾーンを規定する線量を比較しておきましょう。一部の人たちは、今後、大規模な核惨事が発生しても立入禁止区域は必要ないと信じたがっています。それで、大丈夫なのか?


【免責事項】本稿は聞き取りによる翻訳であり、厳密な正確さを保証するものではありません。

【関連論文】

2015429
Spycher et al., 2015
論文「バックグラウンド放射線と小児癌リスク」~ 国勢調査にもとづくスイス全国コホート研究


概要

【背景】中・高線量の電離放射線による被曝は、子どもたちの癌のリスク要因として知られている。自然線源による低線量放射線が小児癌リスクに寄与する程度は未解明のままに残されている。

【目的】われわれは国勢調査にもとづくコホート研究を実施し、小児癌発症率が地殻ガンマ線および宇宙線によるバックグラウンド放射線と相関しているのか、その妥当性を検証した。

【方法】1990年および2000年の国勢調査時点で16歳未満だった子どもたちを研究対象にした。追跡調査期間を2008年までとし、スイス小児癌登録によって関連する癌患者を特定した。居住地における地殻および宇宙からの放射線による線量率を推測するために、放射線モデルを使用した。癌リスクと線量率および誕生時以降の累積線量の相関性を評価するために、コックス回帰モデルを使用した。

【結果】国勢調査に記録された子どもたち2,093,660名のうち、白血病が530人、リンパ腫が328人、中枢神経系(CNS)腫瘍が423人の子どもたちを含む1,782人の癌症例が特定された。外部放射線の累積線量が1 mSv増加する場合の危険率は、全癌で1.0395%信頼区画〔CI〕:1.01, 1.05)、白血病が1.041.00, 1.08)、リンパ腫が1.010.96, 1.05)、中枢神経系腫瘍が1.041.00, 1.08)だった。一連の潜在的交絡因子による補正を施したが、結果にほとんど影響しなかった。

【結論】われわれの研究は、バックグラウンド放射線が子どもたちの白血病と中枢神経系腫瘍を含む癌リスクに寄与している可能性を示唆している。

2スイス全国コホートにおける16歳未満の子どもたちの外部電離放射線の線量率による癌の危険率。

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Spycher et al (2015). Background ionizing radiation and the risk of childhood cancer: a census-based nationwide cohort study, Environ Health Perspect, DOI:10.1289/ehp.1408548. http://ehp.niehs.nih.gov/wp-content/u...
Supplemental material http://ehp.niehs.nih.gov/wp-content/u...

Kendall et al (2013). A record-based case-control study of natural background radiation and the incidence of childhood leukaemia and other cancers in Great Britain during 1980–2006. Leukemia. 27(1): 3–9. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/artic... And as a 130-page report, free online: https://www.gov.uk/government/uploads...

Two slide presentations by a co-author of Kendall (2013) that give a good sense of the context of research in which Kendall (2013) occurs and its unique features: (1) http://www.melodi-online.eu/doc/04_wa... (2) http://www.melodi-online.eu/doc/melod...

6:24 Table E11 in Kendall (2013): https://www.gov.uk/government/uploads...

6:28 Table S3 in Spycher (2015): http://ehp.niehs.nih.gov/wp-content/u...

7:29 Chernobyl exclusion zones, dose-rate criteria for: http://sti.srs.gov/fulltext/SRNL-STI-...

7:29 The dose range in Spycher et al is given on page 11: http://ehp.niehs.nih.gov/wp-content/u... as 55-383 nSv/h, converting nano- to micro-sieverts is 0.055 - 0.383 µSv/h (as @ https://www.unitjuggler.com/convert-e... ), and rounding is 0.06 - 0.4 µSv/h as @ 7:29.

Previously I critiqued two examples of advocacy against exclusion-zone policy, first by the nuclear-energy advocate Jim Al Khalili :http://youtu.be/P-4YJfwF1MQ And also by a team of professors from MIT who designed a lab experiment that, based on what prior research had shown, guaranteed the results they wanted, which they then used to try to persuade the public that evacuation zones are unnecessary : http://youtu.be/e8YFe6Q08M8 Be sure to also the see the video description for links. It's a not-uncommon sentiment that the Fukushima evacuations have caused more suffering than they will prevent, hence evacuations ought not take place. This is noted since some unfamiliar with post-Fukushima nuclear advocacy are astonished as they should be to hear anyone suggesting people should just be left to live in the next nuclear-disaster zone.

Review of previous background-radiation research: https://www.gov.uk/government/uploads... And in greater depth from page 88:https://www.gov.uk/government/uploads...

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