2015年9月16日水曜日

救援連絡センター『救援』寄稿記事「郡山市からの報告~戦争法制と甲状腺癌」


郡山市からの報告
戦争法制と甲状腺癌
東日本大震災から46か月のいま、国政の最大課題はもちろん戦争法制。
すでに3年余り続けてきた「原発いらない金曜日!」JR郡山駅西口ひろばフリートーク集会も目下、戦争法制反対「九条壊すな!」抗議集会とジョイント開催になっている。
憲法が捻じ曲げられ、この国が戦争のできる「普通の国」になる恐れがあるいま、もちろん声を上げることは大事である。だが、原発事故が収束し、いわゆる「風評被害」が払拭されるまえに、核事故の被災地・被曝地の実情報道が払拭されるかに思えるいま、「戦争法案反対!」と声を上げるだけでよいのだろうか?
たとえば、次のようなニュース――
福島県いわき市に接する茨城県北茨城市は国の補助金による子どもの甲状腺検査の対象区域から外れているので、市民から多く寄せられた要望に応え、市が独自に福島第一原発事故時に18歳以下だった子どもたちを対象とした「甲状腺超音波検査事業」を2年間かけて実施しており、825日、その結果を公表した。
検査の対象者約8,000人のうち、実際に受診したのは、約60%にあたる4,770名。そして、この中から三人の子どもたちが甲状腺癌と診断された。率にして、一万人に6人である。
国際的に小児甲状腺癌の発症率は百万人に一人か二人とされているので、これが疫学上の異常事態であることは誰にでもわかるはず。
ところが、北茨城市の公表文書はペラペラの1枚だけ。「北茨城市甲状腺超音波検査事業検討協議会」は、「検査はスクリーニング検査であり、通常の健康診断と同様、一定の頻度で要精密検査、がんと診断される方がいらっしゃる」ので、「この甲状腺がんの原因については、放射線の影響は考えにくい」と宣う。
福島県の甲状腺検査を実施している福島県立医科大学は、これまで①チェルノブイリで小児甲状腺癌が急増したのは五年目以降、②スクリーニング効果で、一斉検査しなければ見つからない病気が発見されるなどと説明しており、北茨城市の検討協議会は、この姿勢に追従したものと思われる。
ちなみに情報公開についていえば、北茨城市は協議会の委員名簿すら公表しない。
では、メディア報道は…?
筆者の知るかぎり、大手紙が伝えたのは朝日新聞と毎日新聞だけで、それも北茨城市の発表内容をそのまま伝えるだけの大政翼賛会体制さながら。テレビでは朝日系列の報道ステーションがかなり良質のニュース特集を組んだが、他はニュース皆無のようである。報道ステーションに登場した岡山大学の疫学者、津田敏秀教授が「スクリーニング効果が考えられるのは、10万人に1人程度のオーダーまで」と発言したのは問題の本質を突いているが、注目を集めなければ、社会への警鐘にはならない。
本稿執筆中の今日、福島市で福島県「県民健康調査」検討委員会が開催された。配布資料から、子どもの甲状腺検査で見つかった悪性腫瘍ないし疑い例をあげてみると――
先行調査(一次検査): 113症例
本格調査(二次検査): 25症例
合計で138人が甲状腺癌ないし疑い例と診断されたわけである。本格調査は一次検査が一巡したあとの二回目の検査であり、先行調査の受診者約30万人を母集団として、率を計算すると、1万人に4.6人になる。
福島県全体より、北茨城市の率が高くなっているが、原発事故直後の放射性ヨウ素レベルは原発の南側で高かったという報告があること、また山地が海岸に迫る北茨城市の地形により都市部が袋状になっていることから、これを説明できるかもしれない。
チェルノブイリでは、事故五年後から癌だけでなく、ありとあらゆる病気が急増したという。繰り返して言うが、安保法制阻止は天下の一大事だ。だが、いま現実に進行している命にかかわる人権侵害を見過ごしてはならない。
(郡山市・井上利男)

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